エンジニア社長2人が四半世紀を経てかなえた、米国老舗と日本ベンチャーの協業:ベンダー社長が語る「CAE業界にまつわるエトセトラ」(3/3 ページ)
米国に本社を持つCAEの老舗 エムエスシーソフトウェアと日本の新進CAEベンダー テクノスターの協業発表。その裏には、MSC日本法人の加藤社長とテクノスターの立石社長の四半世紀に渡る交流と、日本のCAE業界に対する“共通の思い”があった。
困難に立ち向かうことが喜びです
加藤 立石さんと私の一番の共通点は、「常に変化しないと、ストレスがたまっちゃう」ことです。立石さんが出演したテレビ番組を見ていたら、私が考えていることと同じことを言っていたんです。「わざわざ難しい方を選ぶ」って。変化を求めるその方向も、困難な方に向かっていくのが楽しいわけですよ。それがストレスではなく喜びになっていくのです。
立石 MSC時代、香港に何年か赴任し、日本に帰国したときに感じたのは、「変化の穏やかさ」でした。非常にスロー。ある意味、日本は安定しすぎているのかもしれません。ハングリー精神がないとかよく言われますが。テクノスターを作るときに、3つの信念がありました。1つ目はプリ/ポストの世界だから、グラフィックスとコンピュータの天才がいればできる、という確信。2番目は架空のものを作っても意味はない、現実のものを作ろう、だからお客さんに教えてもらおうということ。3番目は一番大事な点ですが、いったん作った以上は世界のトップになるものを作ろうということです。何もないところから、新しい何かを、しかもその世界のトップになるものを作ろうというのはなかなかできないですよね。誰もそれを信用しないですよね。ただ、その信念がなかったり、その動きをしなかったりしたら、結局何もできない。だから、常に新しい何かに対するチャレンジのところが、加藤さんと僕は似ているのでしょう。
MONOist 日本企業にも、もっと元気が戻ってほしいですね。
立石 「日本人は優秀である」ということをもっと認識するべきですよ。世界中いろいろ見てきましたが、一番優秀な民族というのは恐らく日本人だろうと思いますね。どこが優秀かと言えば非常にシステマチックで、しかも情緒があります。お互い助け合います。非常にピースフルです。インテリジェンスも高いです。歴史的に見れば明治維新、革命をあのスピードで達成した国はどこにもないですよね。江戸時代の和算は、ニュートンなんかのレベルに達していました。明治維新後に、日清戦争、日露戦争、そして太平洋戦争があり、世界一の飛行機である零戦を作りましたよね、あのスピードですよ。あれは日本人のまさに優秀なところの代表的なものです。それで、大国アメリカと戦って負けて、完全に焦土と化しました、でも十何年かのうちに世界のほぼトップまで行きました。これはまさに日本人の優秀性ですよ。そういう歴史を持った優秀な民族ですから、今までの状態ではだめですよね。私はもっと日本人が、自分自身とみんなに自信を持つべきだと思います。
加藤 ハイブリッド車については、日本は率先してやったおかげで、国内でもアメリカでもハイブリッド車の人気がすごいですよね。これは良いチャレンジをしたと思いました。日本って攻めに転じたら強いんですよね。ところが守りになって保守的になると非常に弱くなってしまう。ここをもう一度グローバルで攻めに転じる。自分たちの新しいビジネスモデルとか、新しいテクノロジーを、どうやって世の中に広げていくかということをもっと積極的に考える、横並びじゃなくてね。孫さんの動き(ソフトバンクの「Sprint」買収の件)は素晴らしいですよね。あの攻めの気持ちをもっと日本の企業の人たちは持たなきゃいけないですよ。
守りは攻めの3倍のエネルギーを使います。日本の場合には、同じ業種にたくさんの会社があり、皆、横並びです。そこで安心感を持ってしまうのですよね。自動車にしても電機にしても、1つの国にこれだけの数の会社がある国って、ほぼありません。常に横並びですから、グローバルで置いてきぼりを食らってしまうのです。携帯電話端末もそうでしたし、PCも……。
1950〜1970年代の日本というのは、今と違ったんですよ。製造業が積極的に新しい生産装置を入れていました。ロボット化や自動化なんて、日本が圧倒的に進んでいたのです。そのときの成功体験が、今もあるから、いまだにそこで勝負しようとします。でもそれは既に、韓国も中国も、他の国も全部やっているわけです。「次、どうするか」。やはり、設計をどうにかしないといけないのです。
立石 製品のおよその価値を決めるのは、大体9割が設計です。そこに、どれだけドラスティックにメスを入れられるか。
加藤 設計の基礎となる大学の教育も、もっと変わってほしいですね。欧米と比べると、日本の大学の、特に工学の教育レベルはまだ低いですよ。厳しさがありません。材料力学が選択科目になっているのですから。三大力学が必須じゃないなんて信じられません。
立石 日本人は、「答えのある問題を解くこと」については非常に優秀だが、「新たな問題を作り出すこと」については弱いのです。例えば東京大学の入学試験問題が難しいとしてもね、そこに答えはあります。答えがあるから、解けるのであれば、それなりの努力をすれば解けるはずです。ところが、ビジネスの世界や、CAEの問題では、答がないわけですよ。
加藤 新たな問題を作って、自分たちで解いていく、ということが継続できるのが大事ですね。「問題が来るのを待っている」ような状況が、30代、40代にまで広がってしまっていると思います。
立石 以前、日立造船を辞めた後、中国に行きましたが中国語は分からないし、電話もない何もない、何も分からない状態でした。ただ、動けば何かあったし。動かなければ何もなかった。それだけでした。待っているのではなく、自ら動かなくては。
Profile
佐々木 千之(ささき かずゆき)
元ITmedia News編集長/環境メディア編集長。アスキーでパソコン通信、インターネット、DOS/V系雑誌などの編集を経て、IT系Webニュースに記者・編集者として長く関わる。現在はフリーランスでニューヨーク近郊に在住。1topi「サイエンス」「企業ニュースななめ読み」キュレーター。
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