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熱解析するなら「サーマルマネジャー」を育てなさいMONOistゼミ レポート(2/3 ページ)

本稿では、2013年9月11日、都内で開かれたMONOistゼミナールの内容をお伝えする。今回のテーマは、「熱解析入門」。“入門”ながら聞きごたえある講座となった。サーマルデザインラボの国峯尚樹氏、オリエンタルモーターの伊藤孝宏氏が講演した。

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熱設計の基本を整理

 熱設計とは「温度を予測するのではなく、目標温度を満たすために対策を立てる」ことだと国峯氏は言う。どうしても熱問題は、設計データを基にシミュレーションソフトで温度を予測するという、“後からの対策”になりがちだ。そうではなく、目標とする温度を満たすための対策を最初から設計図に盛り込むという発想への転換が重要となる。

 熱設計において必要となるデータは、論理的かつシンプルに示せるという。各部品の上限温度、使用上限温度、そして発熱量である。これらを基に放熱機構を設計する。その際に満たすのは、「機能・性能」「寿命」そして「安全性」の3つとなる。

 一昔前までは設計後の対策でも何とかなっていた。だが今は機能設計に合わせて熱対策をしていては、品質や寿命、安全性の確保が難しくなっている。そのため、熱対策と機能設計とのトレードオフが必要になってくる。

 簡単な熱対策の手順の1つとして、部品を仕分けしていく方法を紹介した。もとから自身を冷却できる部品と、できない部品に仕分ける。そのためには表面積当たりの消費電力、つまり熱流束が「700W/m2」程度が目安となるという。それ以上だと基板などに頼らなければ冷えない。次に目標熱抵抗を見る。これはプリント基板の温度上限から部品周囲温度を引いて、消費電力で割ったものだ。これが目安の「30K/W」以下なら放熱部品が必要になる。

従来手法の組み合わせしかない

 国峯氏は具体的な作業を分かりやすく整理してみせた。まず設計者は放熱手段と対策手法を知っておくことが重要である。機器の冷却手段は理論的に3つしかないという。伝熱面積を大きくすること、熱伝達率を大きくすること、そして機器内部温度を下げることである。

 伝熱面積を大きくする代表例はヒートシンクである。だが最近は小型化により、採用できないことも多いので、それ以外の手段で周囲へ熱拡散する。つまり筐体や基板への熱伝導、配線を利用した放熱といった手法だ。熱伝達率を向上させる手段には放射と対流がある。ファンレスや密閉の有無、コストなどの制約をみながら可能な対策を行っていく。


熱対策手段のいろいろ

 いずれにしろ、材料は新しいものが常に出てくるが、冷却機構が変わることは基本的にないと国峯氏は言う。ヒートシンクをはじめ、ヒートパイプやペルチェ素子なども昔からある冷却手段だ。すなわち驚異的なデバイスが登場して熱問題が解決するということは考えにくく、熱対策はこれらをどう組み合わせるかに懸っている。それらをいかに製品設計に練り込んでいくかしかないということだ。

シミュレーションでNGが出たときに設計に立ち返れるか

 熱設計する際には、ツールの導入だけでなく、その使い方のルール作りや、熱設計プロセスの定義および運用など取り組むことが多くある。そのためにも熱設計に責任を持つサーマルマネジャーの育成が必須だと国峯氏は言う。

 また「熱設計で重要なのは、シミュレーションして、熱的な問題が予測されたときに、そこで設計し直しといえるかどうか」だと国峯氏は述べた。シミュレーションの前提に曖昧なところがあるため、「結局、何とかなるのでは」と判断し、そのまま進めてしまうことが多い。そうするといつまでたっても効果は見えてこない。

 きちんとした基準や運用ルールを基に判断を下し、実績を重ねていくことが、熱設計を設計工程に根付かせるために重要だとした。

もっと手軽に最適化設計を始めてみよう


オリエンタルモーター 鶴岡カンパニー 主席研究員で工学博士の伊藤孝宏氏

 熱解析をする行う際には、最適化も取り組みたい手法の1つだ。一方、ハードルが高く感じられるのも事実だろう。伊藤氏によると、最適化で得られる効果の1つは、「できあがった設計図が、熱対策に効果があるという根拠を具体的なデータで示せること」だ。

 熱的な問題は量的なものと質的なものに分けられるという。


量の問題

質の問題

 量の問題とは大きさや流量などで、これは比較的簡単に熱バランス損失から計算できる。一方、質的問題はどういった追加部品を選択しどのようなレイアウトにするかといった問題だ。これらは勘と経験に頼る部分が多いという。熱に関してベテランであっても、それが最適だと論理的に説明することは難しい。

 最適化によってそれらの根拠を示せれば、客観的に「今回の設計は良い」と言うことができる。一方、あまり経験を積んでいない設計者だと、より良い案を見逃す可能性がある。最適化設計を行えば、自分の発想が及ばない条件も検討可能だ。

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