進撃の国産EMS、沖電気が描く日本型モノづくりの逆襲:モノづくり最前線レポート(37)(2/3 ページ)
国内工場が逆境に立つ中で“製造現場の強さ”そのものを武器とし、国産EMSとして業績を伸ばしているのが、沖電気工業 EMS事業本部だ。最後発の国産EMSとして成功した秘密はどこにあるのか。また日本型モノづくりの勝ち残る道はどこにあるのか。沖電気工業 常務執行役員 EMS事業本部長の清水光一郎氏に話を聞いた。
携帯電話機には手を出さない
モノづくりの力が優れているとはいえ、EMSとしては最後発に近い。既に世界では、台湾の鴻海精密工業や米国ジェイビルサーキットなど、巨大EMS企業が台頭。日本の大手電機メーカーなども数社がEMS事業に参入したもののうまくいかないことが見えてきていた状況だった。
その中で成功を収めるためには「まずやらないモノを決めたことが大きかった」と清水氏は語る。
「例えば、携帯電話機やスマートフォン端末など民生機器などは基本的に扱わないということを当初から決めていた。既に世界の巨大EMS企業が手掛けており、競争が厳しい。またわれわれが持つ生産技術による差別化が行いにくく、取り組むメリットが少ない。われわれが狙うべきは多品種少量生産の製品。命や生活基盤に直結し、高い信頼性や技術力が要求されるモノだ。そこにこそ日本の高い技術力が生きると考えている。この方針は今後も変わらない」(清水氏)。
ハイブリッドモノづくりによるコスト削減
ただ、いくら技術力が優れているとはいえ、日本での生産はアジア諸国で生産する場合に比べて、高コストであることは事実だ。「コスト競争力をどう実現するか」という点は、国内工場共通の課題になっている。
OKI EMS事業本部では、この課題に対し「ハイブリッドモノづくり」を推進する。ハイブリッドモノづくりとは、人手で取り組む作業を代替する内製の製造機械を活用し、工場の効率と品質を向上させる取り組みだ。人手で作業しなければいけない作業と代替が可能な作業を切り分け、作業の一部をロボットや機械に担わせていく。
実際にOKI EMS事業本部の工場内を見ると自作の機器が非常に多いことに気付く。例えば、通信機器などに利用する大型のプリント基板の自動はんだ付け装置がある。
従来500mm×500mmクラスの大型プリント基板は、熟練技能者が手ではんだ付けを行っていた。機械で行うと大型であるため、はんだ付けの質とプリント基板への熱ダメージの問題がトレードオフの関係になり、品質が確保できなかったからだ。しかし、手作業では1枚の基板のはんだ付けを仕上げるのに数時間かかるケースもあり、生産工程のボトルネックとなるケースがあった。
この課題を解決するため、溶かしたはんだに基板を押し当ててはんだ付けを行う独自の自動はんだ付け装置を装置メーカーと共同開発した。この装置を利用すると従来手作業で数時間かかっていた作業がわずか1分で済むという。作業時間は100分の1以下に縮まった。
また、部品倉庫の管理システムも内製した。指示書のバーコードを読み取らせると必要な部品がある棚にランプがつき、欲しい部品を簡単に集めることができるシステムだ。同様の仕組みは、物流向けなどでパッケージとなったものがあるが、これらを導入すると数千万円規模の費用が掛かる。同社では、バーコードリーダーやPCソフト、スイッチ、LEDなどを組み合わせて、自作で作り上げた。ちなみに部品棚を示すライトはピンポン玉にLEDを入れただけのものだ。工夫を凝らしたおかげで、費用は数十万円程度で抑えることができたという。
OKI EMS事業本部の工場内ではこうした取り組みが各所で行われており、作業効率を抜本的に高めているという。
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