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自動運転についてロボットとセンサーの視点から考える和田憲一郎の電動化新時代!(6)(2/3 ページ)

最近になって「自動運転」という言葉を聞く機会が増えている。しかし、話題が先行するばかりで、その課題がいまひとつはっきりしていないように見受けられる。そこで、自動車メーカーからの視点ではなく、ロボットメーカーやセンサーメーカーからの視点で、自動運転を実現させるための課題を追った。経済産業省の担当者へのヒアリング結果も併せて紹介しよう。

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センサーメーカーの視点

 次に、センサー側から見た場合の自動運転について紹介しよう。まずは、センサーについて60年以上の実績を持つドイツ生まれの企業、SICK(ジック)の伊藤琢也氏に話を伺った。

和田氏 SICKの沿革について教えていただきたい。

伊藤氏 SICKは1946年に創業し、光電センサーの専門メーカーとしてスタートした。1980年代に入って、同じくドイツで同業のIBEOという企業が生まれた。IBEOは、数多くのパテントを有している技術者集団だったが、2000年にSICKがIBEOを吸収合併した。

 このIBEOの傘下にIBEO Automobile Sensorという企業があり、ここで車載センサーを数多く製造していた。SICKがIBEOを吸収合併した後、車両に内蔵するセンサーはIBEOが、車両の外部に取り付けるセンサー(例えば地図作成用、取り締まり用のセンサーなど)はSICKが販売することになった。2011年には、SICKとIBEOは、それぞれ別の会社として独立し、完全に経営を分離した。しかし、販売については上記区分けにて協力しあっている。つまり、自動運転の用いる車両内蔵センサーはIBEOが扱うことになる。

和田氏 Googleの自動運転車両の屋根の上に取り付けられている3次元センサー(Velodyne製)の長所と短所は何か。

伊藤氏 自動運転車両の目として、高速で瞬時に周囲の状況を識別する能力に優れている。しかし、車両の近傍の前後左右については、屋根の上に取り付けるセンサーでは検知できない。車両の低い位置に、複数のレンジセンサーを配置することにより、死角を持たないセンサーシステムの実現が可能になる。

 3次元センサーは気候の変化にも弱い。雨や雪がひどくなってくると、途端にセンシングできなくなる場合があるのだ。なお、現在のVelodyne製センサーはかなり消費電力が大きいと聞いている。

和田氏 SICK(もしくはIBEO)で3次元センサーを開発しないのか。

伊藤氏 現在研究中である。例えば、Velodyneの3次元センサーは、円筒の中に置いたレーザー素子を使って15Hzの周期で周囲をスキャンしており、1回のスキャンに70msかかると推測される。しかし、SICKの場合、50Hzの周期でスキャンするため、1回のスキャンに20msしかかからない。応答時間が重要になる衝突防止機能については、スキャン時間の短縮が有効になるだろう。

和田氏 今後、クルマにとってセンサーの位置付けはどうなっていくの。

伊藤氏 安全装備のシートベルト、エアバックのように、クルマの標準装備品は進化してきた。これと同じように、レーザーレーダーの装備を義務化するなど、車両の外をセンシングすることが必須になってくるのではないか。自動運転は、その先にある技術だと考えている。1個のセンサーで1つのことしかできないのではなく、1個で何でもできるAll in Oneのセンサーを作りたいが、現時点ではさまざまなセンサーの組み合わせになるだろう。

SICKの伊藤琢也氏(左)と筆者
SICKの伊藤琢也氏(左)と筆者

 レーザーレンジセンサーの有力メーカーとして日本で歴史と経験を積み重ねてきた北陽電機に、自動運転に用いる3次元センサーをどう見ているのか聞いた。話を伺ったのは、同社の技術担当取締役を務める森利宏氏とR&D推進室の川田浩彦氏である。

和田氏 自動運転用に開発に着手したレーザーセンサーはあるか。

川田氏 現時点では、自動運転用に開発しているものはない。

和田氏 米国のVelodyneのような3次元センサーを開発することは可能か。

森氏 開発することは可能だろう。ただし、どのような仕様で、どう作るかを事前に検討しなければならない。それが明確になれば、その後2年程度で開発できるのではないか。

和田氏 自動運転用の3次元センサーを実用化する場合の技術的課題は何か。

川田氏 センサーを360度回転させる必要があるため、モーターの耐久性(スリップリングが傷みやすい。またベアリングやグリス切れも含む)や、小型化、そしてコストが課題になるだろう。センサーを搭載する位置や、センサーの形状も検討する必要がある。

和田氏 自動運転に用いるセンサーといえば、超音波やミリ波レーダー、レーザーレーダーなどいろいろある。レーザーレーダーはクルマで使われることが多いが、その長所と欠点について教えてほしい。

川田氏 レーザーレーダーは、近距離から数十mの中距離まで対象物の距離を正確に計測できるので、クルマのセンサーとして使うのに適している。しかし、激しい降雨や濃い霧の状態では距離計測の精度が不安定になる場合がある。特に大雨には弱い。

 また、対象物の色によっても差が出てくる。白色であれば遠くまで距離を計測できるが、黒色だとレーザーを吸収してしまい遠距離では計測が難しくなる。さらに、レーザーは人体の網膜に影響を及ぼすため、発振できる信号の強度が制限されることも、計測可能な距離に限界がある一因となっている。

 今後のレーザーレーダーの技術発展には、何らかのブレークスルーが必要と考えている。また、1つのセンサーだけで全ての要求を満足させることはできないので、他のいろいろなセンサーを組み合わせある必要がある。

左から、筆者、北陽電機の森利宏氏、川田浩彦氏
左から、筆者、北陽電機の森利宏氏、川田浩彦氏

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