すごいぞスパークプラグ、2000℃に加熱してから急冷して高圧を掛けても壊れない:いまさら聞けない 電装部品入門(9)(3/4 ページ)
スパークプラグは、イグニッションコイルからの高電圧を使って燃焼室内で火花を発生させて、混合気を点火する電装部品である。安ければ500円で買えるスパークプラグだが、燃焼室内という非常に過酷な環境で動作を続けられるように、さまざまな工夫が盛り込まれている。
フラッシュオーバー
意外と知られていませんが、スパークプラグ上部にあるヒダ(コルゲーション)にも重要な役割があります。
これはターミナル部とハウジング部間で、直接火花が飛んでしまうフラッシュオーバー現象を少しでも防止するために、ヒダを付けて表面的な距離を長くしているのです。
「こんなに長い距離を火花放電するの?」と考える方が多いかもしれません。しかし、ターミナルとハウジングが、圧縮空気中ではなく大気中に存在していることを考慮しなければなりません。
ターミナルには最大3万Vもの電圧が生じていますので、一般的に25mmほど離れた位置にあるハウジングまで火花放電する可能性は十分あります。
プラグキャップが多少ピッチリとスパークプラグに密着して取り付けられている理由は、このフラッシュオーバーを防ぐ目的があります。
電気は流れやすい方へと流れていきますので、要求電圧(導通に必要な電圧)が、
燃焼室内の中心電極−接地電極間電圧 > 大気中のターミナル−ハウジング間電圧
になった時点で、フラッシュオーバーは発生します。
圧縮圧力が非常に高い場合や、中心電極が機械的に摩耗してプラグギャップ(電極すき間)が広くなることは、フラッシュオーバーが発生する直接的な原因となります。
当然ですが、プラグキャップのシール性不良によって水が浸入したり、スパークプラグとの密着性が悪くなったりしても、フラッシュオーバーが発生しやすくなります。
熱価選択
熱価とはスパークプラグが、燃焼工程で受けた熱を放熱する度合いのことです。
熱価という言葉を聞きなれない方もいらっしゃるかもしれませんが、スパークプラグと、取り付け対象となるエンジンをマッチングする場合に、とても重要な指標になります。
熱価が高いものは放熱しやすいタイプ(高熱価型:冷え型)、熱価が低いものは放熱しにくいタイプ(低熱価型:焼け型)という意味で、一般的にスパークプラグの熱価は数字で表されます。
熱価を選択するということは、スパークプラグがその機能を発揮するために最適な温度域となるように熱価を合わせるということです。一般的な乗用車の場合、5〜8番の間で収まる場合がほとんどです。ただし、特殊なチューニングが施されているなどの場合は、エンジン特性に合わせて熱価を選択する必要があります。
スパークプラグに求められる性能の中で、「(7)燃焼生成物に対する汚れに強いこと」を挙げました。この性能は、スパークプラグ自身が持つ自己清浄作用に依存しています。
自己清浄作用とは、スパークプラグのがいし部や中心電極部に付着したカーボンを、スパークプラグ自身が持つ温度によって焼き切る作用のことです。
自己清浄作用が働く最低温度(下限温度:自己清浄温度)は、中心電極温度が約450℃といわれています。自己清浄温度よりも低い状態になることが多いと、中心電極付近のがいし部は黒ずんだ色にくすぶります。
逆に中心電極温度が高すぎると、この電極が熱源となって混合気が着火してしまいます。
これでは、ECU(電子制御ユニット)がさまざまなセンサー情報を基にして適切な点火タイミングを計算しているにも関わらず、スパークプラグの火花とは無関係に着火してしまいます。出力の低下やエンジンへの深刻なダメージへと発展することもあります(過早着火:プレイグニッション)。
この写真の状態だと、中心電極部の摩耗もみられますので、物理的にプラグギャップが広くなっています。その分だけ要求電圧が高くなってしまうので、スパークプラグの本来の性能を発揮することができません。早急に交換する必要があります。
プレイグニッションが発生する温度は約950℃といわれています。自己清浄温度も含めて考えますと、スパークプラグが本来の性能を発揮するには、中心電極温度を約500〜800℃の間に保つことが理想的です。
ここまでに3種類の焼け色をご覧いただきましたが、最適な熱価を選択するにはこの焼け色で判断するのが一般的です。
電子制御による燃料噴射装置が普及するまでは、このスパークプラグの焼け色を強く意識する必要がありました。しかし現在は、チューニングなどでエンジンの出力を大きく変更しない限り、基本的には熱価を変更する必要はありません(スポーツ走行を除く)。
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