JVCケンウッドとZMPがスマホ活用テレマティクスで新会社、マイクロソフトも協力:あの「助手席カノジョ」も登場
JVCケンウッドとベンチャー企業のZMPは、スマートフォンを活用したテレマティクス事業を手掛ける新会社を合弁で設立する。新会社は、自動車の制御系システムのデータを出力できるインタフェース「カートモUP」を活用したスマートフォンアプリの開発を加速させるとともに、それらのアプリから得られるプローブ情報を用いたサービスの実用化なども検討している。
JVCケンウッドとベンチャー企業のゼットエムピー(ZMP)は2013年7月18日、東京都内で会見を開き、スマートフォンを活用したテレマティクス事業を手掛ける新会社「カートモ」を合弁で設立すると発表した。
カートモでは、ZMPが開発した、自動車の制御系システムのデータをスマートフォンに出力できるインタフェース「カートモUP」と、それらのデータを用いたスマートフォンアプリを開発できる「カートモUP SDK(ソフトウェア開発キット)」を販売する。併せて、スマートフォンの通信機能によって自動車の走行データをはじめとするプローブ情報を、Microsoftのクラウドサービス「Azure」に蓄積する「カートモクラウドサーバー」の保守・運用・管理を行う。そして、カートモUP、カートモSDK、カートモクラウドサーバーを使ったスマートフォンアプリ「カートモアプリ」の開発を推進し、テレマティクスによる新たな市場の開拓に取り組む方針だ。
カートモUPとカートモUP SDKは、先着1000台限定で1万円のセット価格で販売する。出荷時期は2013年9月を予定している。また、カートモUPの高機能版となる「カートモUP PRO」は、2013年8月から9万円で販売する。2013年11月からは、カー用品店などを中心に一般販売を開始。グローバル展開も進めて、3年以内で100万台超の普及を目指す。
テレマティクスと自動運転技術は両輪
ZMPは、自動車の自動運転などに利用できるカーロボティクス技術を中核とするベンチャー企業である。2007年に発表した一般的な乗用車の10分の1サイズである「RoboCar 1/10」を皮切りに、1人乗り小型EVをベースにした「RoboCar MV」、トヨタ自動車の「プリウス」をベースにした「RoboCar HV」、「プリウスPHV」をベースにした「RoboCar PHV」など、自動運転技術の研究開発に利用できるプラットフォーム製品の展開を広げている。
ZMP社長の谷口恒氏は、「カートモが手掛けるテレマティクス事業は、自動運転技術とともにZMPの両輪になる事業だ。テレマティクスでクラウドに集積したプローブ情報を分析して得た自動車ユーザーのニーズと、将来的に開発される自動運転技術をすり合わせることで、自動車ユーザーにとって役立つ自動運転技術を実用化できるのではないかと考えている」と述べる。
パートナーとなるJVCケンウッドは、2006年にZMPが発表した音楽ロボットの開発に協力したことがあり、最近では2011年発表のRoboCar HVの開発に人員を派遣するなど、以前からZMPとは関係が深かったという。
JVCケンウッド取締役会議長の河原春郎氏は、「当社の2012年度売上高は約3100億円。その約3分の1に当たる1000億円を、カーナビゲーションシステム(カーナビ)やカーオーディオなどのカーエレクトロニクス事業が占める。しかし、カーエレクトロニクス事業で扱うべき技術は、カーナビやカーオーディオから、さらなる次世代への変革を迎えつつある。その変革の方向は2つある。1つは運転支援システムを用いた自動運転技術などによる自動車自身の変革。そして、もう1つが、テレマティクスを使った自動車が外界とつながることによる変革だ。カートモは、自動車と外界をつなぐ技術の開発を加速させることを目的としている。カートモの設立が、カーエレクトロニクス事業の新しい夜明けになるのではないかと感じている」と語る。
カートモの資本金は1000万円。出資比率は、ZMPが51%、JVCケンウッドが49%となっており、ZMPが主導権を握って開発を進めることになる。河原氏は、「当社にも研究所があるが、急激に変革が進みつつあるテレマティクス分野では、開発スピードが5〜10倍は早いであろうベンチャーの活力を生かすべきだと考えた」と説明する。谷口氏は、「ベンチャーとして、大企業にはできないスピードで開発を進めたい」と意気込む。
カートモクラウドサーバー向けに、クラウドサービスのAzureを提供する日本マイクロソフトからも、同社の業務執行役員で最高技術責任者を務める加治佐俊一氏が会見に出席した。加治佐氏は、「ベンチャーであるZMPと、JVCケンウッドのカーエレクトロニクス事業のコラボレーションに参加できてうれしい。日本マイクロソフトとしても、単にクラウドサービスを提供するだけでなく、日本発となる自動運転技術やテレマティクスサービスの実現に貢献したい」と述べた。
「ナイトライダー」のように自動車と対話できるアプリも
カートモの中核を担うカートモUPは、自動車の整備工場などで車両情報を取得する際に用いるOBD(On-Board Diagnostics) IIインタフェースから、自動車の制御系システムに用いられているCAN(Controller Area Network)ネットワークの通信データ(CAN情報)を取得できる。このCAN情報には、車速やアクセルペダル/ブレーキペダルのストローク、ステアリングの切れ角、シフトレバー位置をはじめ、自動車の走行状態に関するさまざまなデータが含まれている。加えて、OBD IIインタフェースと接続するコネクタの内部に加速度センサーとジャイロが組み込まれており、それらのセンサーデータも得られる。カートモUPを介してスマートフォンに電力が供給されるので、電池切れの心配もない。
カートモSDKを使えば、カートモUPが出力するCAN情報とセンサーデータ、スマートフォンのGPSデータを活用したスマートフォンアプリを開発できる。このアプリに、カートモクラウドサーバーが提供するプローブ情報を用いたサービスや、他社のWebサービスと通信連携する機能を組み込むこともできる。
カートモUPとカートモSDKを使って開発したアプリの先行開発事例となるのが、ZMPによるSNSアプリ「カートモファン」と、NeXTiSによる「助手席カノジョ」である(関連記事:萌えアプリ「助手席カノジョ」とのドライブは最高! ZMPの「カー友SDK」で開発)。この他にも、「海外ドラマ『ナイトライダー』のように自動車と対話できるアプリなども考えられる」(谷口氏)という。
また、カートモUPから得られるプローブ情報が、これまで自動車メーカーが収集してきたプローブ情報よりも多くのデータが得られることも特徴の1つになりそうだ。谷口氏は、「大手自動車メーカーが純正カーナビで収集してきたプローブ情報は、ナローバンドの無線通信回線に前提にしていることもあって、あまり多くのデータを収集できていなかった。しかし、カートモでは、スマートフォンの高速無線通信を使うので、より多くの自動車の走行データを収集できるはずだ。この高密度のプローブ情報をいかに活用するかも大きなテーマになるだろう」と述べている。
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