“筋肉バカ”な精密加工屋さん、かわいい筋肉育成グッズを開発する:マイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(25)(1/2 ページ)
もともとは現役プロキックボクサーである自分のために作ったけれど、意外と女性にも好評だった。軽量で女性や子どもでも、楽しみながら筋肉が育成できるという「くるくるパンプアップ」とは?
マイクロモノづくりを成立させるためには、設備を持って製造する会社や、製品アイデアを持つ方とのコラボレーションが必須です。
今回は、光精工 専務取締役の秋山大輔さんにお話を伺いました。
秋山さんは精密機械加工会社の3代目として長年にわたり、大手メーカー下請けとして部品を供給し続けてきました。今は、“1社依存”状態から脱却しようと、肉体を鍛えるための器具開発に挑戦しています。
光精工はゲージメーカーの協力会社として1964年に創業。以来、マシニングセンタ、NC旋盤、研磨による精密機械加工を得意としてきました。長年培ってきた精密加工技術と精密計測技術を基礎に、顧客のさまざまなニーズに応えてきましたが、リーマンショックによる不景気で受注が激減しました。
秋山さんは、「そのうち、また忙しくなるだろう」と思っていて、社内業務の改善をしながら、顧客からの注文を待ち続けました。しかし、状況は全く良くならなかったのです。
そのまま時は過ぎ、2012年になってしまいました……。
初めての自社商品開発
「このままではいけない」と思った秋山さんは、2012年の6月、enmonoの「マイクロモノづくり経営革新講座」に参加し(3期生)、初の自社商品開発に挑みます。
秋山さんは最初、折りたたみ自転車の開発を計画しようとしました。しかし、講座の中で発表しなければならない「開発理由に関するストーリー」が、なかなかまとまらなかったのです。
この講座では、自分の内面と向き合いながら、「本当に作りたいモノ」を見つけていきます。「今、はまっていることは何か」という私たちの問いに、秋山さんは「筋トレ」(筋肉トレーニング)と答えました。秋山さんは、実は、現役のプロキックボクサーでもあります。秋山さんにとって筋トレは、趣味と言うより、「日々、食べることのように、当たり前にやっていたこと」。まさに「筋肉バカ」です。
実は筋トレこそが、秋山さんのマイクロモノづくりの核となる「ワクワクすること」。それに気が付いてからは、商品開発のストーリーがスピーディに組み立てられていきました。
プロキックボクサーが開発した筋トレ器具
その後の秋山さんは、「くるくるパンプアップ」と名付けた筋肉トレーニング器具を作り出しました。手のひらサイズでドーナツ型をしたかわいい外見の器具で、場所を選ばず手軽にトレーニングができるというものです。
手に持ってくるくる回すと、内蔵されたボール玉も回り、遠心力が発生します。この遠心力を使って筋肉に負荷を掛けようとする仕組みです。つまり、自分で筋肉に掛ける負荷を調整できるのです。
このくるくるパンプアップを完成させた秋山さんは、2012年6月30日に講座を卒業しました。
秋山さんは、自社製品開発をきっかけに初挑戦したことが、幾つもありました。
まず2012年11月には、秋山さんは試作品でアート系イベントに出展しました。「知らない人に、自分の商品について説明するのは初めて」という秋山さんでしたが、熱いプレゼンテーションでたくさんの来場者の注目をひいていました。
展示ブースには、さまざまな人がきてくれました。理学療法士の方は、「(筋肉に)効いているのが分かる」と言ってくれました。「クレー射撃をしているので、腕を鍛えている」という女性もいました。その女性は、販売品はないと分かっても、「どうしても売ってほしい」と言ってくださいました。
くるくるパンプアップは、もともと自分専用トレーニング器具として考えたものでした。それを、子どもや女性、年配の方までもが気に入ってくれたのです。それは、想定外の発見でした。秋山さんも、とてもうれしかったようです。
「このような発見をもっとするために、発信しなければ!」――そう感じた秋山さんは、より多くの声を聞こうと、FacebookやYouTubeなどを使い、くるくるパンプアップの情報を発信し始めました。秋山さんはファンと交流を持ちながら意見を集め、改良を重ねています。
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