キミは知っているか? 魔法の世界を創り出すディズニー・リサーチを:現実世界をプログラミング可能に(1/3 ページ)
IT系フリーライターは表の顔。その実、熱狂的ディズニーマニアである宮田健氏がお届けする、ディズニー・リサーチの創り出す魔法の世界。皆がよく知る“夢と魔法の王国”は、多くの先端技術と堅実なモノづくり精神で支えられている!!
夢と魔法の王国、「ディズニーランド」を知らないという人はいないだろう。映画制作出身のウォルト・ディズニー(Walt Disney)氏が、映画の世界を現実にしようと尽力し、後に“テーマパーク”というカテゴリを作り上げた遊園地がディズニーランドだ。
現在、このディズニーランド型のテーマパークは世界に5カ所、11パークが存在している。その中には数多くの“アトラクション”が稼働しており、本物と見間違えるようなロボットたちが動いている。これは、ディズニーで働く「イマジニア(Imagineer)」たちの成果だ。
イマジニアとは、“イマジネーション(Imagination)”と“エンジニア(Engineer)”を組み合わせた、ディズニーの造語である。ディズニーというと、どうしても夢やファンタジー、おとぎ話の世界をイメージするだろう。だが、その世界を支えているのは、想像を現実のものとする「モノづくり」の精神だ。
ディズニーの魔法のようなモノづくりは、どこで行われているのか。それは、ディズニーのイマジニア部門の一部、「ディズニー・リサーチ(Disney Research)」という研究部門である。
本稿では、2013年6月19〜21日の3日間、東京ビッグサイトで開催された「3D&バーチャル リアリティ展」において、ウォルト・ディズニー・カンパニー ディズニーリサーチ ピッツバーグ研究所 主任研究員 イワン・プピレフ(Ivan Poupyrev)氏が行った特別講演「バーチャル世界にリアリティを創り出す 〜『フィジカル・コンピューティング』が実現する新たな世界〜」の内容に触れながら、ディズニー・リサーチが創り出す“魔法”の数々を紹介していきたい。
ディズニーが作り出す魔法と未来
ディズニーはこれまでも「オーディオアニマトロニクス(Audio-Animatronics)」と呼ばれるロボットで、動物や人間の動きを再現し、魅力的なエンターテインメントを演出してきた。オーディオアニマトロニクスが初めて導入されたのは、鳥が主役のアトラクション「魅惑のチキルーム(The Enchanted Tiki Room)」で、2013年はその50周年という節目の年だ。
ディズニーの技術はそこから50年間、常に進歩し続けてきた。では早速、ディズニーが作り出した最新の“魔法”を紹介しよう。これは既に実用化されているエンターテインメント「Glow with the show」である(動画1)。
動画1を見ていただくと、前方で開催されている噴水と映像によるショー「World of Color」と、ミッキーの耳の形をしたイヤーハットのライトが完全に同期(連動)して光っているのが確認できるだろう。ゲスト(来園者)である自分たちが、ショーの一部として参加できるというのが最大の特徴だ。
この魔法のタネは、IRレシーバ(後述の分解記事によると、Vishay Intertechnology社の「TSMP6000」が使われているとのこと)にある。ショーの開催場所に設置された発信器と、帽子に付けられたIRレシーバがショーの進行に連動する形で通信を行い、指定のタイミングに、指定された色で耳が発光するよう作られている。このイヤーハットは、23米ドルで販売されており、お土産として持ち帰ることもできる(画像1)。場所やショーの内容によって耳の光り方も変化する。
日本でも同様のことを目指したペンライトシステム「FreFlow(フリフラ)」や「LumiConne(ルミコネ)」などが、一部イベントで使われているが、ディズニーはこれを2012年6月時点で実用化し、販売まで行っている。これは特筆に値するだろう。なお、チップの解析を含むイヤーハットの分解記事は、以下のブログ記事が参考になる。
このように、ディズニーは真剣に“魔法”を現実的な手段で、リアルな世界に持ち込もうとしている。その研究機関として、ディズニー・リサーチは存在している。
「現実をプログラミング可能に」――ディズニー・リサーチが目指す場所
3D&バーチャル リアリティ展の特別講演において、プピレフ氏は、米国の発明家レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏の『2033年までに、血球サイズのコンピュータたちが、完全没入型の仮想現実感を作り出し、“仮想は現実感と競い合う”ようになるだろう』という言葉を引用し、「仮想現実感と現実世界とは、相反する関係なのだろうか?」と問うた。
プピレフ氏は、「現実感をバーチャルリアリティで置き換えるのではなく、仮想現実感が現実感を補う、あるいは、対照して引き立たせることに意味がある」と述べる。例えば、スクリーンを通してバーチャルな敵と戦うことができるおもちゃが、世の中で既に発売されている。現実世界の中でおもちゃを動かし、そこにバーチャルな映写を組み合わせる。そうすることで、物理的世界がより楽しくなるのだ。
ここでプピレフ氏は、コンセプト段階のエンターテインメント「SideBySide」を紹介した(以下に掲載したディズニー・リサーチのWebサイトにある動画をご覧いただきたい)。
ここで使用しているのは、モバイルプロジェクター、カメラ、センサー、ボタンなどが組み込まれた手のひらサイズのデバイスだ。これでキャラクターを壁に投影している。壁に投影したキャラクターに、他プレーヤー(の他デバイス)が映し出したキャラクターが近づくと映像が変化する(何らかのアクションを起こす)など、映写したイメージ間で“シナリオ”を作ることができるというものだ。仕掛けは、モバイルプロジェクターにあり、映像と同時に赤外線の2次元バーコードを映写し、それをデバイスが撮影することで、他のデバイスの映像との距離を測ることができる。
ここでのポイントは、インフラや追加装置がなくても、このデバイスと壁さえあれば遊べるということだ。「現実とバーチャル空間が共存し、対照されるときにのみ仮想現実は意味を持つ」とプピレフ氏は説明する。
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