「HEMS道場」とは何か、新たなインキュベーションを探る:和田憲一郎の電動化新時代!(5)(2/3 ページ)
「HEMS道場」――聞きなれない言葉だが、最近この“道場”を活用して新たなインキュベーションを探る動きが出てきている。HEMS道場の目的やインキュベーションの手法など、HEMS道場の秘密に迫った。
実践の場となる「COMMAハウス」
和田氏 HEMS道場におけるCOMMAハウスの役割は。
荻本氏 アイデア・ジェネレーターを実機で試験できる場所として、東京大学生産技術研究所の敷地内にあるCOMMAハウスを活用することとした。このCOMMAハウスは、東日本大震災のあった2011年の夏に、建築とエネルギーマネジメントの実験の場として設立された。一見普通の戸建住宅だが、太陽光発電システムと蓄電池、太陽熱集熱器の熱を利用できる給湯システム、空調機器が設置されており、家電や住宅設備とECHONET Liteで通信接続する機能も備えている。電動窓や電動シェードで断熱性能を変化させることもできる。つまり、アイデア・ジェネレーターの成果を実際に試験するのに最適な環境と言えるだろう。
和田氏 なぜCOMMAハウスが必要なのか。
荻本氏 少し振り返ると、経済産業省が2008年春に発表した「Cool Earth−エネルギー革新技術計画」に向けた議論では、単純な「見える化」を超えるエネルギーマネジメントが可能かという議論の末、革新的技術として電力需要のシフトや二次電池の活用など、エネルギーマネジメントの世界を描くことができた。
再生可能エネルギーとして期待されている太陽光発電や風力発電は、その出力が天候などによって変動して、電力システムの運用が不安定になる。その調整を発電所などの供給側のみに頼ることは不可能だ。このような観点から、日本を含めた世界各国で、この分野の技術開発が進んでいる。東京大学柏キャンパス(千葉県柏市)では、経済産業省の実証試験プロジェクトとして、HEMSを活用した電力需要の調整に関する技術開発/実証試験が行われている。
東日本大震災で実際に計画停電が行われてから約2年が経過した。現在は、被災発電所や原子力発電所が稼働せずに電力が足りなくなることよりも、高価な燃料を用いて発電していることの方がより問題視されるようになっている。
このような状況に長期的に対応するため、そして、賢く、楽しくエネルギーを有効活用するため、HEMSの拡張性が望まれている。HEMS道場は、住まい手がわくわくするような観点から、ジャンルを超えて社会インフラを構築することが大切であると考えており、アプリベンダーも入っていろいろ検討することで、これまでと全く異なる世界も実現できるのではないかと期待している。そして、そのような試みをCOMMAハウスの実機環境で動作させれば、アプリの価値をより具体的に評価することができ、研究を進めている高付加価値のHEMSのあるべき姿にもフィードバックできると考えている。
アプリベンダーにとってのHEMS
和田氏 アプリベンダーであるイサナドットネットが、HEMS道場に参加する狙いについて教えてほしい。
石谷氏 東京電力からHEMS道場を案内していただき、弊社の戦略上重要な活動と位置付け参画した。HEMS分野においてソフトウェア開発を通して貢献できればと思っている。現在、弊社の開発領域はスマートフォンやタブレット端末が中心だが、「モノのインターネット(IoT:Internet of Things)」という新興分野への取り組みも意欲的に行ってきる。その1領域として注目しているのがHEMSだ。HEMSの可能性を探る上で、HEMS道場で提供されているアイデア・ジェネレーターなどの実装・実験が可能なプラットフォームは大変有用である。
和田氏 どのような計画で開発を進めるのか。
石谷氏 基本的に2年ぐらいで成果が出るようにしたい。最初の1年間はアプリのアイデアを具体化し実装する段階になる。アイデアから実装、そしてCOMMAハウスでの実機評価というステップを踏むことになるだろう。2年目はそのアプリのビジネス化を考えたい。現在は睡眠に関するものを含めて4つのプロジェクトを推進している。
COMMAハウスで実機評価を行うことにより、企業間や技術面でのIntersection(交点)が生まれつつある。この交点を、HEMS上のサービスに生かしていきたい。
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