子どもたちがいつでも・気軽に触れられるコンピュータを――「Raspberry Pi」に詰まった創業者の思い:あの名刺サイズPCはこうして生まれた(2/2 ページ)
発売1年で100万台以上が売れた小型コンピュータ「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」の開発者であり、コンピュータの開発スキルの発展を促進するために設立された財団「Raspberry Pi Foundation」の創設者でもあるエベン・アプトン(Eben Upton)氏がイベント出席のため先ごろ来日。Raspberry Piに対する思いや今後の展開、自身の経験などについてお話を伺った。
日本市場への期待、今後のロードマップは?
MONOist Linuxが動作するコンピュータ教材ということですが、Raspberry Piには、ユーザーコミュニティーのようなものはあるのでしょうか?
アプトン氏 現在、Raspberry PiのWebサイトがあります。メインは英語ですが、サブフォーラムの中には、英語以外の言語で書かれたものも少しあります。日本語については、今まさに支援を検討・強化しているところです。
先日行った日本でのイベント(2013年5月25〜26日)の成功を受け、これからやろうと決めたことがあります。1つは、Webサイトの日本語化です。Raspberry Piの公式サイトは日々更新されているわけですが、この英語版サイトを追い掛ける形で日本語に訳して、日々更新していきたいと考えています。これは双方向の取り組みとして考え、北米・欧州のWebサイトの内容を日本語で出していくのと同時に、日本で起きていることについても英語化して北米・欧州に発信していきます。われわれは、日本市場に大きな期待を持っています。だから、もっと真剣に取り組んでいくことにしました。
MONOist これまで100万台以上売れたRaspberry Piですが、「Model A」「Model B」に続くバリエーションや、今後のロードマップについてはどのようにお考えでしょうか?
アプトン氏 まず、ディスプレイを接続するための拡張ボードを提供する予定です。また、Raspberry Pi本体については、コネクタの位置を少し変えるなど、レイアウトの軽微な変更について幾つかの計画があります。ただし、基本的なハードウェア構成を変えるような予定はありません。この軽微な変更は、Raspberry PiのModel A/Bのマイナーチェンジ版(Revision 3)という形でリリースする予定です(現在は、Revision 2)。残念ながら、皆さんが期待しているような「Model C」の計画は今のところありません。
われわれは、既に購入してくれたユーザーを継続的に支援していかなくてはなりません。ハードウェアの仕様を大きく変えると既存ユーザーが困ってしまいますので、今はソフトウェアの改良・改善に注力しています。ソフトウェアをブラッシュアップしていくことでも、かなりいろいろなことができるようになります。
最近、私たちは「Wayland」のデモをリリースしました。通常、X11 Window SystemをRaspberry Piで動かすと、もたついたり、ちらついたりします。しかし、Wayland/Westonでは、GPUを利用することで高速に動作しますし、フェードなど各種のエフェクトもスムーズに動作します。
補足:
Waylandは、Linux向けに開発中のウィンドウプロトコル/ディスプレイサーバプロトコルで、X Window Systemに置き換わるものといわれている。Westonは、Waylandのリファレンス実装の名称である。
われわれ自身が、自分たちで何かコーディングしたり、ビルドしたりするということは原則していません。オープンソースのものを使うように努力しています。われわれが使っているソフトウェアの多くは、オープンソースコミュニティーにお金を支払って、われわれが求めているものを作ってもらっています。Raspberry Pi Foundationはチャリティ財団という位置付けであり、収益を上げることはできません。入ってきたお金(収入)は、残らず支出しなければなりません。そのため、オープンソースコミュニティーなどに投資したり、教育分野に支出したりしています。
MONOist では、今後のRaspberry Pi Foundationの方向性について、どのようなビジョンを持っていますか?
アプトン氏 2つあります。1つは教育にもっと注力していくということです。われわれはチャリティ財団であり、子どもたちがもっとコンピュータでプログラミングできるようにすることが使命です。決して、小さなコンピュータをたくさん作ることが目的ではありません。子どもたちがプログラミングを学ぶためのプラットフォームとしてRaspberry Piを普及させて、それによって収益を得て、チャリティに回しています。チャリティ財団ではありますが、寄付金は基本的には受け取っていません(例外として、2013年1月にGoogleの寄付によって英国の学校に1万5000台のRaspberry Piを送っている)。
もう1つは、Raspberry Piは幅広い層に評価される、非常に良い汎用コンピュータになり得るということです。Waylandなどへの投資はこれが理由です。こうした投資を通じ、今後ますますRaspberry Piが子どもたちにとって、より魅力的なコンピュータになっていくと同時に、開発で使ってみたいと考えている大人たちにとっても魅力的なものになることでしょう。こうした考えの下、われわれは現在、パートナーから支援を得て、インド、アフリカ、南アメリカに対して調査や投資などを行っています。
MONOist Raspberry Piを教育やR&Dだけでなく、商用で利用したいという声もあるのではないでしょうか?
アプトン氏 そうした考えは、とても素晴らしいと思います。このプラットフォームの良いところは、小さな企業でも競争できることです。Raspberry Piを使って、起業家は非常に革新的なソリューションを構築することができ、それによって大手企業と同じ土俵で戦うことができます。起業家を支援することは、われわれの目指したいところの1つでもあります。
かつてのヒーローたちと一緒に
MONOist アプトンさんご自身のことについてお尋ねします。最初に触れたコンピュータは何だったでしょうか? プログラミングはどのように学ばれたのでしょうか?
アプトン氏 私が最初に触ったのは、バーミンガム大学にあったミニコンです。(初期のコンピュータゲームである)“Hunt the Wumpus”というゲームを遊んでいました。それが3歳のころです(ちなみに、アプトン氏は1978年生まれ)。そして、自分で最初に所有したコンピュータは「BBC Microcomputer(BBC Micro)」です。それが11歳のときでした。BBC Microの販売台数は150万台といわれていますから、Raspberry Piはそれに近づいてきましたね。Acorn Computers(エイコーンコンピュータ)の創設者であるハーマン・ハウザー(Hermann Hauser)さんは、いま、Raspberry Pi Foundationのボードメンバーになっています。
補足:
BBC Microは、英国のAcorn Computersが開発し、BBCブランドで1981年に発売された教育用8ビットコンピュータである。BBC MicroのCPUはApple IIと同じMOS 6502で、RAM16KバイトのModel Aと32KバイトのModel Bがあった。なお、Acorn Computerはこの後にARMアーキテクチャを開発した企業としても知られる。
最初に学んだプログラミング言語は「BBC BASIC」(BBC MicroのROMに搭載されていたBASICインタプリタ)ですね。BBC BASICを作ったソフィー・ウィルソン(Sophie Wilson)さんは、いま、ブロードコムのシニアエンジニアで、一緒に仕事をしています。つまり、私はかつて憧れだった人たちと一緒に仕事をしているわけなんです(笑)。
MONOist 最後に、日本のRaspberry Piユーザーに向けてメッセージをお願いします。
アプトン氏 われわれは今後、日本市場に対してこれまで以上に真剣に取り組んでいきます。ユーザーグループが日本にもありますので、ぜひコミュニティーに参加して、日本からも積極的に情報を発信し、われわれを驚かせてほしいと思います。さらに、Raspberry Piに対する要望などもコメントしてほしいですね。こうした声を大切にし、Raspberry Piを成功に導いていきたいと考えています。
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