M2Mとクラウドのコンビネーションで実現する――地球に優しい“攻めの農業”:ICTで農業を救えるか!?(2/4 ページ)
明治大学、ルートレック・ネットワークス、セカンドファクトリー、日本マイクロソフトは、明治大学黒川農場が研究を進める「養液土耕栽培」をICTで実現する、養液土耕システム「ZeRo.agri」に関する報告会を開催。温室内に設置された各種センサーからの情報をクラウド(Windows Azure)上に集め、それを分析・解析し、その結果を基に、培養液(水と肥料を混合したもの)を必要なタイミングで、必要な量だけを自動供給するシステムを報道陣に披露した。
環境に優しい農業「養液土耕栽培」
システムの全容を詳しく紹介する前に、農業の現状と課題、そして、黒川農場が研究を進める養液土耕栽培について簡単に紹介しておきたい。
農業が抱える課題には、よく知られている高齢化による農業の衰退、就業人口の減少などの他、肥料による環境汚染があるという。「特に、日本、韓国、台湾、そして中国の沿岸部は、世界でも有数の窒素多肥(窒素を主成分とする肥料のやり過ぎ)地帯である。使った窒素肥料の約半分が(硝酸の形で)地下に流れ出し、河川や地下水汚染につながっている。農業はよく“自然環境に近い産業”のように思われるが、人類で最初の環境汚染は農業から始まったともいわれている」(小沢氏)。
また、地球温暖化にも農業は影響しているという。「土壌にまかれた窒素肥料からは、オゾン層を破壊する物質として知られる一酸化二窒素(亜酸化窒素)が大気中に放出される。さらに、窒素肥料の生産には化石燃料を用いるが、このとき二酸化炭素が放出される。化石燃料使用量の約8%が窒素肥料の生産に充てられているのだ。しかも、生産された窒素肥料の約半分の量が未利用のまま、汚染物質として河川・地下水に流れ出している」と小沢氏は指摘する。
環境保全型農業として、黒川農場が研究を進めている養液土耕栽培とは、土壌に作物を栽培し、水と肥料を溶かした培養液を、必要なとき・必要な量だけ、点滴のようにゆっくりと与える栽培方法(灌水施肥/灌水とは農作物に水を注ぎ掛けること)である。
これは、1950〜60年代のイスラエル(国土の約60%が乾燥地帯)で総合的節水栽培として研究されたもので、同国が園芸作物の大輸出国に発展した基礎となった栽培方法だという。位置付けとしては、水耕栽培と土耕栽培の折衷農法で、コストは水耕栽培に比べて圧倒的に少なくなるのが特徴である。また、元肥(作物を植え付ける前に土壌に与える肥料)が不要で、必要な時期・必要な量だけ培養液を供給するため、肥料の利用効率が上がり、環境に排出される肥料が少なくなるという環境保全効果もある。「養液土耕栽培は、窒素肥料を環境に垂れ流すリスクが少ないという特徴があり、極めて環境に優しい栽培技術である。そのため、世界的にも広がりをみせている」(小沢氏)。実際、イスラエルに次いで、オランダや韓国が盛んに行っている他、最近ではフィリピンやマレーシアといった開発途上国でも急速に普及しつつあるという。
これだけメリットのある養液土耕栽培だが、篤農家の既存技術やノウハウ(経験や勘)に頼る農業経営が主流の日本では“定着が進んでいない”という。「(前述の通り)従来型の農業は、環境汚染をしてきた面もある。そういう意味でもこれからは、養液土耕栽培に切り替えて、環境保全を意識した農業で社会貢献をしていくべきだ」と小沢氏は持論を述べた。
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