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日本と外国との“文化の違い”を“数値”で把握 〜オフショア開発とご近所付き合い〜山浦恒央の“くみこみ”な話(54)(2/2 ページ)

オフショア開発は、海外(外国人)に発注するから難しいのではなく、他人に発注するから難しい――。新シリーズでは、「オフショア開発とコミュニケーション問題」を取り上げる。まずは、日本と外国との文化の違いを数値で把握してみよう。

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3.日本人が品質にうるさい理由

 著名な社会心理学者であるギアード・ホフステッド氏が、1968年から1978年にかけて、全世界の11万6000人を超えるIBM社員を対象に調査を実施し、4つの文化次元を抽出しました。これを「ホフステッドの多次元理論」といいます。これにより、文化的な違いや行動原理を数値で表すことができます。

 近年の研究では、さらに2つの次元が追加され、6つになりました。以下、各次元について解説します。


(1)「権力格差」

 権力の弱い者が、権力が不平等に分布している状況を理解し、それを受け入れるかどうかを表したものです。権力格差が大きい場合は、上司に対して反対意見を言わなくなります。

(2)「不確実性の回避」

 不確実な状況や未知をどの程度嫌うかを表したものです。

(3)「個人主義」と「集団主義」

 個人主義的な集団では、個人と個人の結び付きは弱く、一方、集団主義的な社会では、集団やチームのルールに従うことによって、集団が個人を保護してくれます。

(4)「男性らしさ」と「女性らしさ」

 「給与」「昇進」「やりがい」など社会的評価や上昇志向に関することを「男性らしさ」といい、「上司や部下との関係」「仕事の協力関係」「住んでいるコミュニティー」「雇用の保障」など、横とのつながりや協調関係に関することを「女性らしさ」といいます。

(5)「長期指向」と「短期志向」(追加された次元)

 長期志向は、忍耐や倹約など「利益を得るために、将来、必要となる活動をすること」、一方、短期志向は、慣習、伝統、面子、付き合いなど「過去や現在に関係した活動をすること」です。

(6)「気ままさ」と「自制」(追加された次元)

 気ままさとは、人生を楽しみ、楽しい時間を過ごすことを目指すことです。一方、自制は、厳格な社会のルールで楽しみが抑制され、規制されることを意味します。

 この6つの次元で、日本、中国、ドイツ、インド、アメリカ、タイの文化次元を表したのが表1です。

権力の格差 個人主義 
集団主義
男性らしさ 
女性らしさ
不確実性の回避 長期指向 
短期志向
気ままさ 
自制
日本 54 46 95 92 88 42
中国 80 20 66 30 87 24
ドイツ 35 67 66 65 83 40
インド 77 48 56 40 51 26
アメリカ 40 91 62 46 26 68
タイ 64 20 34 64 32 45
表1 日本、中国、ドイツ、インド、アメリカ、タイの文化次元

 表1を見ると、アメリカは「権力の格差」が低く、「個人主義」が高く、「短期指向」で「気まま」であることが分かります。一方、日本は社会的評価を重視する「男らしさ」が高く、また「不確実性の回避」は他国より圧倒的に高いことが分かります。

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 不確実性の回避が強い国では、曖昧(あいまい)さを解消したいという欲求が働きますが、新規性のある製品、技術、開発手法が生まれないといわれています。日本はよく「高信頼性、高付加価値商品を作るのはうまく、工業化は得意だが、スマートフォンのような新規性のあるモノを作れない」といった話を聞きます。これとホフステッドの多次元理論とを照らし合わせるとうまく説明できます。

 文化の土壌は各国により全く違います。オフショア開発では、日本人の専売特許ともいえる「品質重視(往々にして、過剰品質になる)」を、相手に完全に理解してもらうには、多くの時間が必要です。たった1回の失敗だけで相手を責めず、ある程度のスパンで考えながら、ゆっくりとこちらの考えを浸透させていくべきです。

4.おわりに

 オフショア開発は、ソフトウェア開発におけるコスト削減の“切り札”のように言いはやされていますが、簡単ではありません。効果が高い方式ほど、成功へのハードルも高いのです。オフショア開発は、海外に発注するから難しいのではなく、他人に発注するから難しいのです。もちろん、困難な度合いは、文化が異なると大きくなります。

 さて次回は、仕様書の書き方など、オフショア開発の問題点を具体的に解決する方法を解説していきます。(次回に続く)

参考文献:

  • 「多文化世界―違いを学び共存への道を探る」:有斐閣(1995年) ヘールト・ホフステード(著)/岩井紀子、岩井八郎訳(翻訳)
  • 「各文化におけるGBI戦略 −Hofstedeの文化次元を用いた理論的 考察−」:明治大学大学院経営学研究科(2010年) 古川裕康
  • 「Cultures and Organizations: Software of the Mind」:McGraw-Hill(2010年) Geert Hofstede、Gert Jan Hofstede、Michael Minkov


【 筆者紹介 】
山浦 恒央(やまうら つねお)
東海大学 大学院 組込み技術研究科 准教授(工学博士)

1977年、日立ソフトウェアエンジニアリングに入社、2006年より、東海大学情報理工学部ソフトウェア開発工学科助教授、2007年より、同大学大学院組込み技術研究科助教授、現在に至る。

主な著書・訳書は、「Advances in Computers」 (Academic Press社、共著)、「ピープルウエア 第2版」「ソフトウェアテスト技法」「実践的プログラムテスト入門」「デスマーチ 第2版」「ソフトウエア開発プロフェッショナル」(以上、日経BP社、共訳)、「ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ」「初めて学ぶソフトウエアメトリクス」(以上、日経BP社、翻訳)。


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