SPICEの内側を探る――節点法とは:SPICEの仕組みとその活用設計(1)(3/3 ページ)
電子回路を設計する上で必須となっているSPICE。本連載では、そのSPICEの仕組みと活用法を取り上げる。第1回は、SPICEを使う目的や、数多く存在するSPICEツールの選定基準、SPICEの解析手法である節点法について説明する。
SPICEは何を、どうやって解いているのか?
SPICEは、節点法と呼ばれる、回路図上の各点の値を求める手法を採用しています。これは、回路図に以下のような3つの特徴があるからです。
- 空間や領域という概念がない
- 抵抗やキャパシタといった部品の電流・電圧を扱うことを目標にしている
- 力や流れ場に代表されるベクトルの概念がない
基本的には回路図上の各点(=節点)のスカラー量*3)さえ扱えればよいのです。
*3)スカラー量とは、温度のように大きさしか持たない量のことです。一方、ベクトル量とは、流れのように大きさと方向を持つ量のことをいいます
ですから、解析手法の代表としてよく引き合いに出される、有限要素法や有限体積法(例えば「NASTRAN」や「OpenFOAM」)のような領域を対象としたものを採用する必要はありません。なぜなら、部品間の結線さえ間違っていなければ、電流が回路図の上方向に流れようが、左方向に流れようが回路の動作に問題はないからです。立体空間を扱わないのでベクトルを扱う必要はないのです。
では、SPICEの計算手法を、例を挙げながら説明します。ここでは話を簡単にするため、抵抗と電流源だけで構成される回路網を考えます。これはSPICEではDC解析と呼ばれており、時間によって変化しない一定の解を求めることになります。有限要素法であれば、基本的な解析である線形静解析に相当します。
まず、解析の基礎になる基本法則ですが、以下に説明する「キルヒホフの電流則」を用います。
図2では、電流経路として流入が2本、流出が2本でバランスしていますが、これは単なるイメージです。線上の1点を切ってみれば、流入1本、流出1本の合計2本になります。このように、節点に2本以上の電流経路があれば何本でも問題ありません(1本では電流が流れません)。
回路素子としての抵抗の接続条件にはいろいろ考えられますが、一例として図3の回路網を取り上げます。この例は、電流注入/直列接続/合流(分岐)/接地から構成されています。
この接続条件を解ければ、その他の接続は応用にすぎません。この回路網を実際にどのように解くかについては、次回説明します。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
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