はやぶさ2は燃え尽きない! そのまま別天体へ向かう可能性も 〜ミッションシナリオ【後編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(7)(3/3 ページ)
小惑星探査機「はやぶさ2」が、打ち上げから地球帰還までにこなさなければならないミッションシナリオを整理する。【後編】では、なぜ小惑星「1999JU3」の滞在期間が1年半なのか、その理由とともに、サンプルリターン探査の難しさを詳しく解説する。
ドラマ性はなくとも……
以上、ミッションの流れを一通り見てきたが、小惑星へのランデブー、サンプル採取、地球への帰還、再突入カプセルの投下・回収といったプロセスの全てを成功させないと、「小惑星の物質を得る」という目的が達成できない。ここに、サンプルリターン探査特有の難しさがある。
サンプルリターンではない探査機であれば、各ミッションは並列的であり、例えばある観測装置が壊れたとしても、別の観測装置によるミッションには影響がなく、成果を得ることができる。ところがサンプルリターンは直列的であり、途中のミッションのどれか1つでも失敗すれば、サンプルを得ることはできなくなる。
しかも月や火星と違い、イトカワや1999JU3のような小惑星は、事前に誰も探査したことがなく、行くまで詳しい状態が分からないという難しさも加わる。初代があれだけのトラブルに見舞われながら、何とかミッションを完遂できたのは、まさに「奇跡」としか言いようがない。
それだけに帰還後、映画が何本もできるなど世間が盛り上がったわけだが、あれは結果的に美談になっただけであり、最初から狙ってできるようなものでは当然ない。「はやぶさ2」には初代での経験を生かした改良が施されており、津田助教も「われわれとしては、あんなにドラマチックにしたくないと思っている。失敗するような計画は1つも立てていない」と冷静だ。
しかし、それでも何らかのトラブルは起きるだろう、と筆者は見ている。小惑星サンプルリターンはそれだけ難易度が高い挑戦であり、日本もまだ1回成功しただけにすぎないからだ。「はやぶさ2」のミッションでも、得るべき経験は多いだろう。
世間というものは何かと極端になりがちだ。失敗でもしたら「税金の無駄!」などと批判されるかもしれない。だが「世界一への挑戦」のためにリスクを取った以上、失敗する可能性があるのは当然だし、たとえ失敗したとしても、挑戦を諦めない限り、得られた経験は無駄にはならない。成功するにしろ失敗するにしろ、長期的な視野に立って、冷静な評価を心掛けたいところだ。
筆者紹介
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「人工衛星の“なぜ”を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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