アイドルストップシステムの普及がもたらすスターターの革新:いまさら聞けない 電装部品入門(6)(1/3 ページ)
スターターモーターの基本的な動作を紹介した前回に引き続き、今回は、重要部品であるオーバーランニングクラッチやインヒビター機構について説明する。また、アイドルストップシステム搭載車の登場によって、さらなる進化を遂げつつあるスターターの最新動向についても取り上げる。
前回は、スターターモーター(スターター)の基本的な動作や、その仕組みについて紹介しました。今回は、まず、スターターの重要部品であるオーバーランニングクラッチやインヒビター機構について説明します。そして、市場が急拡大しているアイドルストップシステム搭載車によって、さらなる進化を遂げつつあるスターターの最新動向について取り上げます。
オーバーランニングクラッチ
スターターは、エンジンが始動可能となる回転数まで、リングギヤを介してクランクシャフトを駆動しています。しかし、エンジンが始動した瞬間はスターターのピニオンがリングギヤにかみ込んだままです。
この状態でエンジンが始動すると、それまでスターターによって駆動させていた回転数よりもはるかに高い回転数でリングギヤが回ることになります。見方を変えれば、スターターのピニオンが、リングギヤによって駆動される状態になってしまうのです。
しかし実際にそうなれば、限界を超えた回転数によってスターターのモーターが逆に駆動されることになるので、故障してしまいます。
そこで、スターターのピニオンにはオーバーランニングクラッチというワンウェイクラッチが設けられています。これによって、エンジン始動後の高速回転によって逆駆動が生じても、空転するようになっているのです。
オーバーランニングクラッチは、アーマチュアと連動して回転するアウターレースと、スプラグ式のワンウェイクラッチ機構を介して連結するインナーレース(ピニオン)から構成されています。
アーマチュアの回転力を受けてアウターレースが回転すると、クラッチローラー(スチールボール)がアウターレース内面にある凹部に対して、スプリングの力によって押し付けられることになり、アウターレースとインナーレースが連結します。
インナーレースはピニオンと直結していますので、アーマチュアの回転がリングギヤへ伝わり、エンジン始動が可能になるという寸法です。
エンジン始動後は、リングギヤの回転速度がピニオンの回転速度を上回ります。このままでは、先述した通りリングギヤがピニオンを駆動し、スターターのモーターにその力が伝わってしまいます。
しかし、リングギヤからピニオンに伝わる駆動力は、クラッチローラーとつながっているスプリングを押し縮めるように働きます。これによって、アウターレースとピニオンの連結が解除されるので、ピニオンだけが空転し、スターターのモーター本体に力が伝わることはありません。
インヒビター機構
スターターによってエンジンが始動した瞬間、車両内部に動力源が生じます。
当たり前のことですが、ドライバーが意図しない状況で動力が生じてしまうと、人命に関わる極めて危険な状態になりかねません。
例えば、運転席側の窓が空いている状態で、窓から手を入れてエンジンを始動したとしましょう。このとき、シフトポジションがドライブ(D)だったとすると、エンジンが始動した瞬間に車両が前進してしまいます。
安全を確認してからエンジンを始動することは常識かもしれませんが、人間が操作する以上、ミスはどうしても発生してしまいます。
そのうっかりミスによって人命が奪われないように、スターターが作動するためのさまざまな条件が、インヒビター機構として回路上に設けられています。
ここでご紹介するスターターカットリレーは、最も簡単なインヒビター機構といえます。
回路図を見ると、シフトポジションがパーキング(P)もしくはニュートラル(N)でないときには、スターターカットリレーによってスターターの本体回路が切り離され、ホールディングならびにプルインコイルに電流が流れません。これで、シフトポジションがDのときなどにスターターは動作しなくなります。
この他のスターターのインヒビター機構としては、ブレーキスイッチやクラッチスイッチがスターターカットリレーの動作条件になっている場合もあります。
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