トヨタがホワイトスペースの有効活用に意欲、車車間通信が通信網に進化する:第4回 国際自動車通信技術展
「第4回 国際自動車通信技術展」の基調講演に登壇したトヨタ自動車常務役員の友山茂樹氏は、「地域や時間帯によって異なるホワイトスペース(使用されていない電波の周波数帯域)を自動的に検知し切り替えれば、自動車の車車間通信に有効活用できる」と意欲を示した。
「第4回 国際自動車通信技術展」(2013年3月13〜15日、東京ビッグサイト)の基調講演に、トヨタ自動車の常務役員で事業開発本部とIT・ITS本部を担当する友山茂樹氏が登壇した。友山氏は、「地域や時間帯によって異なるホワイトスペース(使用されていない電波の周波数帯域)を自動的に検知し切り替えれば、自動車の車車間通信に有効活用できる」と述べ、現在自動車向けとして認められている5.8GHz帯や700MHz帯にとどまらない電波の利用法を提案した。
まずは700MHz帯の車車間通信に注力
友山氏が事業を担当するITS(高度道路情報システム)では、道路上のインフラと車両の間で通信を行う路車間通信や、車両と車両の間で通信を行う車車間通信といった無線通信を用いる。現在、日本では、路車間通信に5.8GHz、車車間通信に700MHzの周波数帯域を使用している。
同氏は、「交通事故の60%が交差点で発生している。遮蔽(へい)物の影響を受けにくい700MHzの周波数帯域を用いる車車間通信を使えば、見通しの悪い交差点での交通事故を減らせるだろう」と語り、700MHz帯の車車間通信を使った安全支援システムの開発に注力する方針を示した。
アドホック通信で独自の通信網を構築
トヨタ自動車は、この車車間通信について、安全支援システムにとどまらない利用法を検討している。それが、自動車を車車間通信で数珠つなぎにすることで、通常の車車間通信では接続できないほど距離が離れた車両間でも通信を行えるようにする「アドホック通信」である。もし、全ての車両間がアドホック通信で接続されれば、あたかも通信キャリアのように独自の通信網を構築できるわけだ。
しかし、700MHz帯を用いる車車間通信は通信容量に限界がある。通信距離も限られているので、車車間通信する相手の車両が周辺にいなければ、通信そのものが行えない。
そこで友山氏が目を付けたのがホワイトスペースである。放送波が使用している周波数帯域には、干渉を避けるためのホワイトスペースが設けられている。しかし、地域や時間帯によってホワイトスペースの周波数が異なることもあり、活用は難しいとみられていた。同氏は、「ホワイトスペースを自動的に検知して、使用する周波数帯を切り替えられれば、車車間通信に利用できる。このホワイトスペースを用いた車車間通信は、かなり離れた場所にいる車両との通信も可能になるし、通信容量も大きくとれるだろう」と強調する。
ホワイトスペースを用いた自動車のアドホック通信は、災害時に通信インフラが寸断された場合にも活用できる。「基地局が被災するなどして通信が途絶した地域と、通信インフラが維持できている地域を、自動車のアドホック通信によって結び付けられれば、災害復旧に役立てられるだろう」(同氏)という。
既に、車車間通信に放送波のホワイトスペースを活用するための実証実験も進められている。2011〜2012年にかけて宮崎県美郷町で行った実証実験では、使用できるホワイトスペースを切り替えながら、車載カメラの映像データを車車間通信で伝送できることを確認したという。
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