第17回 CAD/CAMデファクト・スタンダード:前田真一の最新実装技術あれこれ塾(2/3 ページ)
実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第17回は、ガーバデータをはじめ、プリント基板設計技術者にとってデファクト・スタンダード(業界標準)となっているCAD/CAMツールのデータ形式について解説する。
2. デファクト・スタンダードの管理
デファクト・スタンダード・フォーマットの管理、運営にはいくつかのケースがあります。基本的にはフォーマットを開発した会社はフォーマットの著作権をもち、フォーマットを管理します。
フォーマットの管理は、例えば、仕様の公開や他の会社がこのフォーマットを使った、ソフトを開発して製品化する場合のライセンス管理です。フォーマットのバージョンアップや仕様の管理も管理です。ライセンスは価格が高ければ多くの会社はこのフォーマットの使用をやめ、フォーマットはデファクト・スタンダードではなくなってしまいます。
ライセンス管理と同様に、大きな問題はフォーマット自体の管理です。特定の会社が作成、管理しているファイルフォーマットや基準がデファクト・スタンダード化して、業界の多くに会社で使われるようになると、新しい問題が出てきます。それは、技術の進歩によるフォーマットの拡張と、互換性の問題です。
新しい技術が生まれ、普及してくると、古いデータフォーマットではその機能に対応できなくなります。新しい機能を定義できるようにフォーマットを拡張してバージョンアップを図る必要があります。
デファクト・スタンダード・フォーマットの場合、このフォーマット拡張と管理には3通りの方法があります。1つはこのファイルフォーマットを開発し、著作権をもっている会社が単独でバージョンアップを行う手法です。この場合、開発状況の秘匿のため、場合によっては、予告なく、フォーマットのバージョンアップが行われる場合があります。
ガーバ・フォーマットはこの形態です。このため、フォーマットのバージョンアップ時には混乱が生じる場合があります。ガーバ・フォーマットはフォトプロッタの入力フォーマットとして開発され、ガーバーの4000シリーズプロッタようの4x00フォーマットとそれを機能拡張した6000シリーズ用の6x00フォーマットがありました。
その後、日本のプロッタメーカーが光源にレーザを使ったレーザプロッタを開発しました。このとき、レーザープロッタ独自の新機能はガーバ・フォーマットでは定義されていなかったので、独自に拡張ガーバ・フォーマットと称して、追加定義をしました。
しかし、数年後にガーバー社がレーザプロッタを製品化したとき、レーザープロッタの機能を含んだRS274xフォーマットを発表しました。このRS274xフォーマットは国産レーザプロッタメーカーの拡張ガーバ・フォーマットと互換性がなかったために、ユーザーに混乱が生じました。
これに対して、フォーマットを開発した会社がこのフォーマットを社会資本とみなし、フォーマットの管理を中立の非営利団体に任せることもあります。この場合、フォーマットを開発した会社を中心に、その他、フォーマットを使用している多くの会社が共同してコンソーシアムを発足させ、フォーマットのバージョン管理、開発を行います。
例えば、損失のある伝送線路解析や、高周波部品のモデルとして使われるSパラメータのタッチストーン(TouchStone)と呼ばれる標準フォーマットがあります。これは、HP社(現アジレント=Agilent社)が開発したフォーマットです。
Sパラメータが損失のある伝送線路解析に適したフォーマットで、IBISの基板配線モデルやパッケージモデルに適しているということで、アジレント社はSパラメータを伝送線路のモデルとして機能拡張する作業をIBIS委員会に任せました。こうして、IBIS委員会がタッチストーン・フォーマットのバージョン2を策定しました(図4)。
3番目は、これらの中間で、フォーマットの管理、開発はフォーマットの開発会社が行いますが、フォーマットの情報は積極的に公開し、バージョンアップの機能要求なども広く公開して募集したりします。
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