検索
連載

「SiC」と「GaN」のデバイス開発競争の行方は?(地域編)知財で学ぶエレクトロニクス(3)(3/5 ページ)

次世代パワー半導体材料であるSiCとGaN。省エネルギーや小型化の切り札とされており、実用化に期待がかかる。現在、開発競争において、どの地域が進んでおり、どの企業に優位性があるのだろうか。それを解き明かすには特許の出願状況を確認、分析することが役立つ。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

次世代パワー半導体デバイスの技術的課題とは

 SiCやGaNといったワイドバンドギャップ半導体では、Si半導体の酸化膜に匹敵する良質な絶縁膜を得ることは困難です。ですから、オン時にゲート絶縁膜に高電界がかかるMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)構造を採る限り、Si半導体並みの良質な長期的信頼性の確保には、それなり研究開発期間が必要になるわけです。

 そこで、SiCやGaNのワイドバンドギャップ半導体の特性を完全に引き出すために、ゲート絶縁膜を利用しないデバイス構造であるBJT(Bipolar Junction Transistor)やJFET(Junction Field Effect Transistor)の活用も試みられています。ただし、単純な構造のSiC JFETでは、回路設計上使いにくいノーマリーオン型デバイスとなってしまうため、デバイス構造の工夫でノーマリーオフ型を実現するさまざまな試みが進んでいます。先ほどのMOSFETであれば構造にかかわらずノーマリーオフ型となるため、信頼性の高い構造実現への取り組みが進んでいます。

 GaNデバイスは青色LEDや高周波HEMT(High Electron Mobility Transistor)を経て発展しており、GaN結晶成長技術も高品質が求められるBlu-ray用GaNレーザーダイオード(GaN LD)のものをベースに開発が進められています。

 SiCウエハーの課題は大口径化とコストの低減でした。GaNウエハーはSiC以上に高価なウエハーとなります。SiCパワー半導体ではSiCウエハー上に作成されるのが通常ですが、GaNウェハーが高価になるため、安価なSiウエハー基板上にGaNを成膜したものを使ったデバイス作成が主流になりつつあります。このSiウエハー上に積層したGaN上にゲート絶縁膜のSiO2を形成して作成されたMOSFETは良好な特性を示すことが見いだされ、GaN MOSFETが実現しました。酸化膜の寿命や安定性などの課題はあるものの大きな進歩を遂げたわけです。基板としてSiウエハーが使えることで、次世代パワー半導体としてのGaNの価格競争力は大幅に向上したことになります。

 積層されたGaNと基板のSiでは、結晶構造と格子定数が大きく異なるため、多数の欠陥を含みます。しかし、GaNの結晶欠陥は縦方向に伸びているため、横方向に電流経路をもつデバイスであるHEMTや一部のMOSFET*7)では、それほど特性の低下がなく、良好な特性を示すとされています。International Rectifierは2010年に、GaN HEMTを内蔵したDC-DCコンバータを発売しており、パナソニックも家庭向けデバイスの開発を進めています。

*7) 「ノーマリオフ型窒化ガリウム系MOS 型電界効果トランジスタの高出力動作」(古河電工時報 第124号 PDF

SiCデバイスの特許出願

 以上のような背景を理解した上で、各種デバイスの特許出願の状況を地域別に確認していきましょう。まずはSiCデバイスです(図1)。


図1 SiCデバイスの各国/地域における特許出願件数推移 各国/地域の特許を以下のように略記した。米国特許:US、欧州特許:EP、WO特許:WO/PCT、韓国特許:KR、日本特許:JP、ドイツ特許:DE(クリックで拡大

 図1からは、SiC FET分野の出願件数が多いこと、さらにSiC FETでは米国公開特許出願件数が日本公開特許出願件数よりも多いことが読み取れます。従って、米国企業がSiC FET技術開発に熱心であるだけでなく、米国外の外国企業にとっても、米国が魅力的なSiC FET市場であることを示しています。また、WO特許/PCT経由の特許出願件数が多いことは、電子技術分野特許における、PCT経由出願件数の多いことが反映されているためと考えられます。WO特許/PCT経由の特許出願などの分類については、記事末尾の「特許出願情報の見方」もご参照ください。


企業における特許出願

 知財戦略の観点から特許の出願先は2つ挙げられます。技術開発を行う国や地域(技術開発拠点国)と、ビジネスにかかわる国や地域(生産国・流通拠点国・市場国)です。企業が特許出願にかける費用は、日本出願の場合、社内コストや当初の権利維持費まで考慮すると1件当たり約100万円で、外国出願まで行うと翻訳費用を含め約300万円となり、複数国に出願ともなれば約500万円に達します。ですから、特許出願件数には企業の経営的意思が反映されていると考えられます。



 図1作成の過程では、特許出願人(Applicant/Assignee)*7)にも注目すべき特徴が現れました。

 日本企業の外国出願(米国、欧州、ドイツ、WO/PCT経由)意欲は極めて高く、電子デバイスメーカー(住友電気工業、デンソー、東芝、富士電機、三菱電機、ロームなど)だけでなく、セットメーカー(ダイキン、安川電機など)も積極的な外国出願を行っています。

 SiC SBDでは、デンソーのドイツに対する積極的な外国出願が目立ちます。自動車メーカー(ドイツDaimler、日産自動車、トヨタ自動車、ホンダなど)のSiCモジュールに対する外国出願が既に始まっています。

 外国企業では、CreeとInfineon Technologiesの積極的な外国特許出願が目立ちます。電子デバイス分野で、各国企業の追い上げを図る韓国企業ですが、図1を見る限り、SiCデバイスへの本格的な取り組みは今後のことのように見えます。しかしながら、SiCコンバータにはLG電子の外国出願も既にあり、今後の韓国企業の動向には注意が必要です。

*7) 米国特許のAssignee(特許譲受人)が日本特許の出願人(企業/大学/研究機関/個人)に相当する。欧州特許(EP)などではApplicant(出願人)だ。米国では、「発明は個人のなせる業」と考えられているためだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る