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第6回 Thunderbolt前田真一の最新実装技術あれこれ塾(3/3 ページ)

実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第6回は、第4回、第5回で紹介してきた「Thunderbolt」について、さらに踏み込んで解説する。

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4. 規格

 まず、Thunderboltの転送速度は、10Gbpsです。この10Gbpsは、現在の技術から低価格で実現できる速度として、適切な設定になっています。

 PCI Express Gen3の8Gbpsよりも20%以上高速な伝送速度ですが、PCI Express Gen3の後に策定された規格で、PCI Express Gen1、Gen2との互換性という制約のない新しい規格では銅で10Gbpsは適当な速度でしょう。実際、40Gイーサネットや100Gイーサネットでは銅線の規格と光の規格がありますが、銅線の規格ではやはり一つの信号線速度は10Gbpsです。それを4本、または10本並列に使って、40Gbpsや100 Gbpsを実現しています。

 かたや、40Gイーサネットや100Gイーサネットの光の規格では、40G規格では、銅と同じ速度の10Gbpsを4本並列で40Gbpを実現しています。100Gでも、10Gbpsを10本並列か25Gbps4本並列となっています。光は高速といわれていますが、Thunderboltの前身で光専用の規格であるLightPeakでも10Gbpsです。

 実は、光はそれほど高速ではなく、価格を抑えると、10Gbps程度の速度しか出せないのです。この速度であれば、銅でも可能だということで、その規格に銅を追加してThunderboltとなりました。光信号の送信器であるレーザダイオード、受信機であるフォトダイオードのスイッチング速度は、高速なもので2.5G〜10Gbps程度なのです。25Gbpsや40Gbpsのスイッチング速度を実現するレーザダイオードやフォトダイオードもありますが、これらは非常に高価で、現在はPCや家電製品には使えません。

 ファイバーケーブル自体は非常に波長の短い光を使うため、非常に高速なデータの転送ができる性能がありますが、光素子の速度によって伝送速度は銅と変わらないものとなっているのです。光通信システムでは、光混合器を使い、1本のファイバーケーブルに波長のことなる信号を同時に送ることにより大量のデータ転送を行っていますが、光信号の混合器や光信号の分離機を使うと価格が高くなります(図8)。

図8 高速光インタフェース
図8 高速光インタフェース(クリックで拡大)
図9 シリアルバスの並列化
図9 シリアルバスの並列化(クリックで拡大)

 Thunderboltで、将来の高速化が謳われています。高速化のためには、光素子の高速化か、光信号の混合器、分離機の低価格化が必要です。高価な試作レベルでは40Gbps程度の光素子が作られているので、これら光素子が低価格で、高速化はしてゆくでしょう。

 高速化に関しては、もう一つ、伝送線の並列化があります。先に紹介したイーサネットやPCI Expressではシリアル伝送路を複数、並列化することによりトータルの伝送速度を上げています(図9)。

 Thunderboltは光コネクタや光伝送に関しての規格はまだ公表されていません。電気的な接続の規格としては、MiniDisplay Portコネクタを使うことがAppleの製品から分かっています(図10)。

図10 Thunderboltコネクタ
図10 Thunderboltコネクタ(クリックで拡大)

 MiniDisplay Portコネクタは20ピンあり、ピンの信号割り当てが決められています(図11)。4系統のビデオ信号と1系統の音声信号伝送が既定されています。しかし、Thunderboltではこの20ピンにどのような信号が割り当てられているのかは分かりません。現在、分かっていることは、10Gbpsの双方向バスが2系統あることだけです。

図11 MiniDisplay Portコネクタのピン配置(ケーブル)
図11 MiniDisplay Portコネクタのピン配置(ケーブル)(クリックで拡大)

 信号的には、5系統のデータ転送が可能と思われます。また、Thunderboltはバスパワーで10Wの電源供給が可能としていることにより、電源ラインは必要となります。クロック信号は、高速シリアルリンクで広く使われているデータにクロック信号を埋め込む技術(おそらくPCI Express Gen3に用いられている128-130ビット変換)が使われていると思われます。その他の制御信号は不明ですが、Thunderboltは単純にデータ転送だけを担うので、複雑な制御は必要なく、制御信号もないものと思われます。

 このように考えると、20本の信号ピンを使うと4系統から6系統程度のデータ信号が割り付けられます。GNDピンを削減すれば、8系統の差動信号の送受信が可能となります。

 PCI Expressは送信ポート(Tx)と受信ポート(Rx)が固定した片方向のデータ転送経路ですが、Thunderboltの2系統の信号は両方とも双方向バスです。これは、例えば同じ10Gbpsのバスが2組あっても片方向のバスが1対の場合には最大転送速度は10Gbpsですが、双方向バスの場合、片方向のデータだけを転送する場合には20Gbpsのデータを転送することができます(図12)。

図12 片方向バスと双方向バスの違い
図12 片方向バスと双方向バスの違い(クリックで拡大)

 最後に、多くはありませんが、現在判明しているThunderboltの規格を表1にまとめておきます。特に光の仕様に関しては、現在までにほとんど情報が公表されていません。

表1 Thunderboltの主な仕様
表1 Thunderboltの主な仕様(クリックで拡大)

筆者紹介

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前田 真一(マエダ シンイチ)

KEI Systems、日本サーキット。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手掛ける。

近著:「現場の即戦力シリーズ 見てわかる高速回路のノイズ解析」(技術評論社)


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