リタイア続出! “魔の第1コーナー”で一体何が? 〜 ETロボコン2012チャンピオンシップ大会〜:ETロボコン・リポート(1/3 ページ)
パシフィコ横浜で開催された「ETソフトウェアデザインロボットコンテスト(ETロボコン)」のチャンピオンシップ大会(競技会)の模様を、多数の画像と動画を交えてリポートする!
「ETソフトウェアデザインロボットコンテスト(以下、ETロボコン)」のチャンピオンシップ大会が2012年11月14、15日、パシフィコ横浜で開催された。チャンピオンシップ大会では、予選となる各地区大会を勝ち抜いた40チームが集まり、走行タイムの早さやソフトウェアの優劣を競った。
この激戦を勝ち抜き、総合優勝に輝いたのは、チーム「HELIOS」(アドヴィックス)。実は彼ら、前回のチャンピオンシップ大会(関連記事)でも総合優勝しており、今大会で見事に2連覇の偉業を成し遂げた。
本稿では、11月14日に行われた競技部門の模様を、多数の画像と動画を交えながら振り返る。
ETロボコンはソフトウェア同士の戦い!
ETロボコンは2002年に、前身の「UMLロボットコンテスト」としてスタート(2005年に現在の名称に変更)。今回で11回目を迎えたロボット競技会である。既にご存じの読者も多いとは思うが、まず、ETロボコンの概要について触れておこう。
ETロボコンの最大の特徴は、「ソフトウェア勝負である」ということ。他のロボット競技会を見てみると、参加者がソフトウェアだけでなく、オリジナルの機体も開発して参加しているケースがよくある。それは当然と言えば当然で、ロボットはハードウェア(機械系・電子系)とソフトウェアの総合力が求められる分野だからだ(そこまでしないと、この手の競技会で勝てないという理由もある)。
これに対し、ETロボコンでは、使用するロボットのハードウェアが大会規定により指定されている。つまり、同一の機体を使っているため、ハードウェアに性能差はなく、“勝負は完全にソフトウェア次第”となる。詳しくは後述するが、現在は走行ロボット(走行体)として、LEGO社の「MINDSTORMS NXT」が採用されている。ちなみに、完全に同一条件とするため、レースで使用する電池は主催者側から当日支給される。
ETロボコンがソフトウェアを重視する理由は、大会の目的が、組み込みシステム分野の企業/教育機関に所属する若手エンジニアや学生に対し、“「分析・設計モデリング」の教育機会を提供すること”であるからだ。
そのため、ETロボコンでは、UMLなどで記述された走行システムを分析し、ソフトウェア設計モデルの内容を審査する「モデル部門」を用意。実際に走行させたタイムを競う「競技部門」とあわせて総合優勝が決まるため、単に「走るのが速い」だけでもダメなのだ。モデル自体の完成度とのバランスが重要となる。
全国大会であるチャンピオンシップ大会に出場するためには、全国11カ所で開催される地区大会において、優秀な成績を納めて選抜される必要がある。今年は全337チームが応募し、そのうち40チームがチャンピオンシップ大会への切符を手にした。競争率8.4倍の激戦を勝ち抜いた精鋭――。それがチャンピオンシップ大会の出場ロボットである。
完走率は50%以下! その原因とは?
しかし、そんな強豪チームですらてこずったのが今回の競技フィールド。
ETロボコンの競技フィールドは、3カ所のゲートを順番に通過してゴールするまでの走行タイムを計測する「ベーシック・ステージ」と、“難所”をクリアすることでボーナスタイムが得られる「ボーナス・ステージ」の2ステージで構成。ベーシック・ステージの走行タイムからボーナスタイムを差し引いた時間が競技結果のタイムとなる。
コースはイン側・アウト側があり、2台のロボットが同時にスタートして競技を行う。規定時間は2分間で、もし2分以内にベーシック・ステージを完走できなかった場合や、途中でリタイアした場合は、走行タイムは2分となる。走行は同じ組み合わせで2回行い、2回目にはイン側とアウト側を入れ替える。この合計タイムで順位が決定する。
走行体は、Segway(セグウェイ)でも有名な2輪倒立振子タイプ。MINDSTORMS NXTとLEGOブロックを使って組み立てたロボットで、センサーとしては、超音波センサー、タッチセンサー、ジャイロセンサー、光センサーを搭載する。これらは全て規定通りに組み立てる必要があり、装飾などの一部を除き、改造は許可されていない。
前半のベーシック・ステージは、坂道と、第1〜4までのコーナーで構成される。この部分は、前回大会のコースと同じように見えるが、よく見比べてみると、コーナーのRが小さくなっていることが分かる。特に、第3コーナーの内側のラインはかなりの急カーブで、前回大会と同じ速度で曲がろうとすると、コースアウトする危険性が高い。
だが“真の敵”は、きつくなったカーブにあらず。今大会のベーシック・ステージの完走率は、1回目が45.0%、2回目が47.5%と、半数以上が途中でリタイアしていたのだが、第1コーナーすらクリアできずにコースアウトしてしまうロボットが目立った。
ベーシック・ステージは、途中に坂道があるものの、ライントレースだけのコースである。ライントレースはロボコンでは基本中の基本であり、完走できないのはともかく、最初のコーナーすら曲がれないというのは見ていて腑(ふ)に落ちなかったのだが、主催者側に確認したところ、「実は前回大会よりも、会場の照明を明るくした」とのこと。
実はこの変更、ETロボコンにとって非常に大きな問題なのだ。ライントレースで使う光センサーは、下方にLED光を当てて、反射してきた光の強度から、黒と白のエッジを検出するのだが、環境光が明るいと全体的に白っぽくなってしまい、この判定が難しくなる。太陽光が入る会場だと時間帯によって計測値が大きく変化することもあり、競技会によってはカーテンを閉めるなどの“配慮”をする場合もあるほどだ。
しかし、ロボットのために環境を整えるというのは、本来、本末転倒な話だ。ETロボコンは企業の技術者も参加する大会であり、組み込みシステムでは、そういった外乱に対してロバストである必要もあるため、今回はあえてハードルを上げた、というわけだ。同じように見えても、フィールドの難易度としては、前回大会よりもかなり上がっているといえるだろう。
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