PHEVに最適なリチウムイオン電池、三元系+リン酸鉄の正極材料で実現:電気自動車
GSユアサは、プラグインハイブリッド車(PHEV)に最適なリチウムイオン電池を開発した。三元系活物質にリン酸鉄を加えた正極材料を用いることで、電池の充電率(SOC)が低く、ハイブリッド車(HEV)として走行する場合でも、一定レベル以上の入出力密度を確保できるという。
ガソリンなどの燃料を使わずに電力だけで走行する電気自動車(EV)向けのリチウムイオン電池で、最も重視される性能はエネルギー密度である。エネルギー密度が高いほど、車両に搭載できる電池の容量も大きくなるので、より長距離を走行できるようになる。
これに対して、ハイブリッド車(HEV)向けのリチウムイオン電池は、エネルギー密度よりも入出力密度が重視される。基本的に内燃機関を使って走行するHEVでは、電池の電力によって走行できる距離を伸ばすよりも、入出力密度と関連する、走行モーターの出力やトルク、ブレーキエネルギーの回生効率を向上する方が重要だからだ。
では、搭載する電池の残容量が多いときはEVとして走行し、電池容量が低下したときはHEVとして走行するプラグインハイブリッド車(PHEV)にはどのようなリチウムイオン電池が最適なのだろうか。
低SOCでも入出力密度を確保
GSユアサが2012年11月8日に発表したPHEV用リチウムイオン電池は、電池容量が低下してHEVとして走行するとき、つまり充電率(SOC:State of Charge)が低いときでも一定レベルの入出力密度を維持できるように、新たな正極材料を採用した。
具体的には、EVやHEV向けのリチウムイオン電池の正極材料に用いられている三元系(LiNixMnyCozO2(x+y+z=1))の活物質に、重量ベースで約10%程度のリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を混合した、複合タイプの正極材料である。
三元系活物質だけで構成される正極材料を用いたリチウムイオン電池は、SOCが50%程度のときと比べて、SOCが30%以下の低SOC領域になると、出力密度が大幅に低下するという問題があった。これに対して、今回混合したリン酸鉄リチウムは、三元系の活物質よりも酸化還元電位が低い。このため、低SOC領域における出力密度の低下を抑制する効果が得られるという。
実際に、新開発の正極材料を用いたリチウムイオン電池は、SOCが50%のときの出力密度が2770W/kgであるのに対して、SOCが30%以下に落ちても1450W/kgの出力密度を確保できている。
この他、新開発の正極材料を用いたリチウムイオン電池は、高いSOCを長時間維持しても、最大充電容量があまり低下しないという特性も備えている。一般的に、リチウムイオン電池は、高いSOCを長時間維持し続けると最大充電容量が低下するという特性がある。夜間に充電して長時間放置することの多いEVやPHEVにとって大きな課題となっていた。
新開発の正極材料を用いて試作したリチウムイオン電池セルの仕様は以下の通り。公称電圧は3.6Vで、容量は13.0Ah。外形寸法は長さ112×幅21×高さ81mmで、質量は365gである。これらの仕様から、エネルギー密度を計算すると128.2Wh/kgとなる。
なお、今回の開発成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受け、2008年度から取り組んできた「Li-EADプロジェクト」によるものである。
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