リニアが第3世代電池監視ICを発表、「EV/HEV向けでシェア75%が視野に」:車載半導体(2/2 ページ)
リニアテクノロジーは、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などに搭載される大容量二次電池の電圧を監視するバッテリモニターICの第3世代品「LTC6804」を発表した。新製品の投入により、リチウムイオン電池を搭載するEVやHEVに用いられる電圧監視IC市場で75%というシェア目標が視野に入ってきたという。
計測速度は10倍に
2つ目の性能向上ポイントは、電圧の計測速度の向上である。LTC6804に接続した12個の電池セル全ての電圧計測を完了する時間は、従来品の約10分の1となる290μsまで短縮された。これは、計測した電池セルのアナログ電圧値をデジタル変換するのに用いる、分解能16ビットのΔΣ変調型A-Dコンバータについて、内蔵フィルタを従来品の2次ノイズフィルタから3次ノイズフィルタに換えてノイズ耐性を向上することで実現した。また、サンプリング周波数は26Hzから27kHzまでの6段階から選択できるようになった。290μsという電圧計測時間は、サンプリング周波数が27kHzのときの値である。さらに、GPIO(General Purpose Input/Output)端子から入力した電流値や温度などの信号との同期も可能である。「顧客は、全ての電池セルについて、電圧、電流、温度などの信号を同期した上で、1000μs以内に取得したいという要望を持っている。LTC6804であれば、その要望に十分に応えられる」(Black氏)という。
3つ目は、複数のLTC6804を接続するための通信方式に、耐ノイズ性の高い「isoSPI」を採用したことだ。EVやHEVに搭載されている大容量二次電池は、数十個〜100個以上もの電池セルから構成されている。このように13個以上の電池セルの電圧を測定したい場合、複数の電圧監視ICをデイジーチェーン方式かアドレス指定方式で接続することになる。isoSPIは、Linear Technologyが独自に開発した2線式の接続インタフェースで、イーサネットに用いる安価なトランスとツイストペアケーブルを用いるだけで、外来ノイズの影響をほぼ受けずに通信を行える。伝送速度は最大1Mビット/秒で、接続線は最大で100mの長さまで対応可能だ。Black氏は、「ケーブル長を100mまで伸ばせるisoSPIの採用によって、比較的小容量の二次電池モジュールを車両内の空きスペースに分散して配置するようなタイプのEVも開発できるようになる」と説明した。
なお、制御用マイコンとLTC6804を接続するのに用いる、isoSPI対応インタフェースIC「LTC6820」も同時に発売する。LTC6820の1000個購入時の参考単価は2.29米ドル。
4つ目はアクティブセルバランスへの対応である。電圧監視ICは、電圧を監視するだけでなく、特性が異なる各電池セルの充電状態(SOC:State of Charge)を均一化するセルバランスの機能も備えている。LTC6802やLTC6803は、あらかじめ設定したSOCに達した電池セルを放電させるパッシブセルバランスの機能しか備えていなかった。一方、充電状態が高い電池セルの電力を、充電状態が低い電池セルに充電するアクティブセルバランスは、パッシブセルバランスよりも電力を効率良く利用できることから注目されている。
LTC6804は、単体ではパッシブセルバランスにしか対応していない。しかし、2013年中の市場投入を予定している双方向アクティブセルバランスIC「LTC3300」と組み合わせれば、アクティブセルバランスにも対応できる。
最後の5つ目は、ISO 26262への対応である。先述した埋め込みツェナー方式の基準電圧源の他に、A-Dコンバータの自己診断用にバンドギャップ方式の基準電圧源も内蔵している。この他、デジタルフィルタやメモリー、計測したアナログ電圧をA-Dコンバータに送るマルチプレクサも自己診断機能を備えている。GPIOインタフェースを使えば、外付けのセンサーやEEPROM、A-Dコンバータ、D-Aコンバータなどを使って冗長モニターも構築できる。Black氏は、「LTC6804を使えば、ISO 26262で最も高い安全レベルであるASIL-Dをクリアした大容量二次電池を開発できる。第三者認証機関によるISO 26262に関する認証取得の準備も進めている」と述べている。
LTC6804のその他の仕様は以下の通り。動作時の最大消費電流は11mAで、スリープモード時の自己消費電流は4μA。外形寸法は8×12mmで、パッケージは48端子のSSOP。動作温度範囲は−40〜125℃となっている。
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