米Linear Technology社は、電気自動車(EV)/ハイブリッド車(HEV)向け電池監視ICの第2世代品「LTC6803」を市場投入した(写真1)。すでに量産中で、1000個購入時の参考単価は995円からとなっている。
Linear社は、2008年9月に、最大で12個直列に接続された電池セルの電圧を、各セル個別に、かつ高精度で計測できる電池監視IC「LTC6802」を発表している。LTC6803は、LTC6802を利用している自動車メーカーやティア1サプライヤの要望を反映することにより性能を向上した第2世代品となる。パッケージはLTC6802と同じく外形寸法が8mm×12mmの44端子SSOPで、端子互換性もあることから、「LTC6802のユーザーはLTC6803に容易に移行できる」(Linear社)という。
LTC6803は、最大で12個直列に接続された電池セルの電圧を±0.25%の精度で計測できるという点では、LTC6802と同じである。ただし、LTC6803は、このほかのさまざまなポイントで性能向上が図られている。まず、1つ目は、絶対最大定格が75Vという高耐圧の製造プロセスを採用したことである。LTC6802の絶対最大定格は60Vだった。Linear社は、「LTC6802は、満充電時の電圧が4.2Vとなるリチウム(Li)イオン電池セル向けを主な用途として設計していた。絶対最大定格の60Vという値は、Liイオン電池セルを12個直列に接続(4.2V×12個=50.4V)した場合でも十分に余裕があるものだった。一方、LTC6803は、絶対最大定格を75Vまで高めたことにより、電池セルの電圧計測範囲の最大値を5.0Vまで広げることができた。さらに、電圧計測範囲の最小値についても−0.3Vに広げた。このように、電圧計測範囲を広げたことにより、ニッカド電池、電気2重層キャパシタ、燃料電池など、Liイオン電池以外のさまざまな蓄電/発電デバイスの電圧を計測できるようになった」としている。
2つ目のポイントは、スタンバイモードにおける消費電流を低減したことである。LTC6802とLTC6803には、3つの動作モードがある。1つは、車両の走行中などに、ほぼリアルタイムに電池セルの電圧を計測する通常動作モードである。もう1つは、駐車時など長時間車両を停止させておく際などに、一定の閾(しきい)値内に電池セルの電圧が収まっているかいないかだけを確認するスタンバイモードだ。最後は、ICの機能を停止しておくシャットダウンモードである。LTC6802の消費電流は、通常動作モードで最大1.2mA、スタンバイモードで約60μA、シャットダウンモードで1μAだった。LTC6803の消費電流は、通常動作モードとシャットダウンモードについてはLTC6802と同じである。ただし、スタンバイモードについては、内部回路を工夫することにより、LTC6802の約1/5となる12μAに低減された。
3つ目のポイントは、電源電圧の供給源の選択肢を増やしたことだ。LTC6802のV+端子は、測定の対象とする電池セルと接続する仕様となっていた。これに対して、LTC6803では、V+端子を外部電源と接続することが可能になった。このとき、外部電源とLTC6803の間にFETを1個組み込むことで、シャットダウンモードの消費電流をほぼゼロに抑えることができるようになる。また、端子関連では、電源電圧のV−端子とグラウンド端子を分離した品種も用意した。LTC6802では、V−端子とグラウンド端子を同一の端子で兼ねていた。V−端子とグラウンド端子を分離することにより、ICが内蔵しているA-DコンバータのPSRR(電源電圧変動除去比)が向上し、電源ノイズも低減できるという。ただし、この品種は、LTC6802の端子互換性を有していないので注意が必要である。
4つ目の改善点は、デイジーチェーン方式でICを接続して通信を行うときの耐ノイズ性を向上したことである。EVやHEVに搭載されている2次電池パックは、数十個〜100個以上もの2次電池セルから構成されている。このように13個以上の電池セルの電圧を測定したい場合には、複数のLTC6802/LTC6803をデイジーチェーン方式で接続することで対応できる。LTC6803は、このデイジーチェーン方式で接続して通信を行うときの耐ノイズ性を、内部回路を見直すことにより向上している。LTC6802と比べた場合、ノイズ電圧への耐性が25倍となる20V、ノイズのエッジレートが5倍となる30V/μsを確保した。
5つ目は、ICの自己診断機能を拡充したことだ。LTC6802の自己診断機能は、配線オープンの検知とウォッチドッグタイマーだけだった。これに対して、LTC6803は、2個目の電圧リファレンスを内蔵することにより、A-Dコンバータやマルチプレクサなど電圧測定に関連する回路の自己診断が行えるようになった。また、マイコンとのバスインターフェースにも、パケットエラー検査(PEC)機能が追加された。これらの自己診断機能の拡充により、自動車の機能安全規格ISO 26262への対応も容易になるという。
ほかにも、LTC6803では、動作温度範囲が−40〜125℃のHグレード品が用意されている。LTC6802では、動作温度範囲が−40〜85℃のIグレード品だけだった。価格についても、LTC6802の1000個購入時の参考単価が1150円であるのに対して、LTC6803は995円に低減された。Linear社は、「すでに、LTC6803を用いた車両の設計が始まっている。近い将来に、LTC6803を搭載した量産車が登場するだろう」とコメントしている。
(朴 尚洙)
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