小惑星に人工クレーターを作れ! 〜インパクタの役割と仕組み【前編】〜:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(4)(3/3 ページ)
小惑星探査機「はやぶさ2」には、さまざまな装置が搭載されている。今回は、隕石の代わりに銅製の「衝突体」を小惑星の表面に衝突させることで、人工のクレーターを作り出す新開発の装置「インパクタ」についてだ。
インパクタの構成
それでは、インパクタの構成について、具体的に見ていこう。まずは、衝突体(金属ライナー)を発射する仕組みである。これには「爆発成形侵徹体」の技術が応用されている。
衝突体を発射するのはインパクタの「爆薬部」である。爆薬部は、漏斗(じょうご)状の容器の内部に4.5kgもの爆薬が搭載されており、衝突体の銅板がこれにフタをしている。衝突体はもともと凹面鏡のような形だが、点火時に爆発の圧力で変形、弾丸状になって飛翔する。
この弾丸の形状については、爆薬部の設計によって変えることが可能だが、「はやぶさ2」では、深く掘ることよりも、大きな直径のクレーターを作ることが重視されているため、ある程度“丸み”を持った形状になっている。
実際にどのくらいの大きさのクレーターができるかは、撃ち込んだ場所の物質によっても異なる。理想的なのは砂場で、期待できる直径は数メートル程度。岩石だと少し小さくなるもののクレーターはできる。ちなみに、一番困るのは軽石のような状態で、これだとズボッと潜ってしまい大きくならない可能性がある。効果を最大にするためには、目標点の選定も重要だ。
インパクタ全体の構成は、以下の図のようになる。左の黄色の部分は、母船とのインタフェースおよび分離機構であり、その右のピンク色と緑色の部分が、分離されるインパクタ本体となる。
分離が必要なのは、爆薬の威力が強力だからだ。分離せずにいると、衝突体の発射時にインパクタの本体ごと爆発しかねない。詳しくは【後編】で述べるが、四散する破片をよけるために、探査機は安全な場所まで退避しなければならない。その退避時間を稼ぐために、インパクタには「シーケンサー(タイマー)」が搭載されている。分離前に起爆時間をあらかじめセットしておくのだ。(次回に続く)
筆者紹介
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「人工衛星の“なぜ”を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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