自動車唯一の電源、鉛バッテリーの仕組み:いまさら聞けない 電装部品入門(1)(3/3 ページ)
自動車のさまざまな機能を支える電装部品。これら電装部品について解説する本連載の第1回では、自動車の唯一の電源である鉛バッテリーの仕組みについて取り上げる。
放電と充電の仕組み
それでは、鉛バッテリーがどのような化学反応に基づいて電力を発生させているのか見てみましょう。
放電
セル内に、陽極板の二酸化鉛、陰極板の海綿状鉛、電解液である重量濃度30〜35%程度の希硫酸が存在するという条件で、両極の端子(ターミナル)間を電気伝導体(導体)で接続すると、化学反応(酸化還元反応)による電子のやりとり=放電が始まります。
※電力が発生するということは、陽極板と陰極板間で電子が移動するということを意味します。つまり、電子が移動するための導体を両端子に接続しなければ、セル内部で以下の化学反応は基本的に起こりません。
化学反応式は、以下の通りです。
PbO2(陽極)+2H2SO4+Pb(陰極)⇒PbSO4(陽極)+2H2O+PbSO4(陰極)
放電によって、両極板に硫酸鉛(PbSO4)が発生し、電解液中に水も生成します。
電解液中の硫酸イオン(SO42−)が陰極板に取り込まれて水が発生するので、「放電を行うと電解液の硫酸濃度が下がる=電解液がより水の状態に近づく」と言ってよいでしょう。この現象を活用しているのが、鉛バッテリーの性能測定指標となる「電解液の比重測定」という手法です。
起電力や凍結温度などを考慮して、鉛バッテリーの性能を最も高い効率で引き出せるといわれている満充電時の電解液の比重は1.280です。一般的な鉛バッテリーの電解液は、満充電時に電解液の比重がこの値になるように出荷されます。そして、放電と充電を繰り返していくと、比重は徐々に低下します。その時点における鉛バッテリーの性能を判断するためには、満充電にした後の電解液の比重を測定して、その値が1.280からどれくらい下がっているかを見ればよいわけです。
充電
放電によって両極板の二酸化鉛と鉛は、硫酸鉛に変化しています。放電時には、陽極から陰極に向かって電流が流れますが、充電するためにはこれとは逆方向に電流を流す必要があります。なお、電子が移動する方向と、電流が流れる方向は逆になるので注意してください。
充電を行う場合には、オルタネータ(発電機)や外部電源の正極と負極を、それぞれ鉛バッテリーの陽極と陰極に接続してから電流を流します。
充電によって、陰極板の硫酸鉛は電子を取り込んで鉛に変化するとともに硫酸イオンを放出します。一方、陽極板の硫酸鉛は、電解液中の水(H2O)と反応して酸化鉛に変化し、水素イオン(H+)と硫酸イオンを放出します。そして、両極板から放出された硫酸イオンと、陽極板から放出された水素イオンが結合して硫酸になります。化学反応式は以下の通りです。
PbSO4(陽極)+2H2O+PbSO4(陰極)⇒PbO2(陽極)+2H2SO4+Pb(陰極)
鉛バッテリーは、必要に応じてこれらの充放電を繰り返しているわけです。何らかの電力が必要になって放電した場合でも、発電機を使って充電すれば電力容量を回復させることができます。
水以外に発生するもの
余談になりますが、鉛バッテリーの充放電における化学反応式を見ると、気体として発生するのは水(水蒸気)だけのように思われます。しかし、バッテリー液が少ない状態で外部電源を使って充電した際に、硫化水素が発生して大変な目にあった経験が筆者にはあります。
その強烈な刺激臭といったらもう、息はできないし、目は痛いし、本当に死ぬかと思いました……。バッテリーの充電で硫化水素は発生しないといった意見も見かけますが、あくまでも通常の使用下においての話だと思います。少なからず私は独特の臭気を発する硫化水素の大量発生を実際に目の当たりにしています。
次回は、鉛バッテリーについてさらに詳しく説明します。「サルフェーション」や「形式」の他に、最近のトレンドであるアイドルストップ機能への対応や、バッテリーとしてのリチウムイオン電池の可能性についても紹介します。お楽しみに!
プロフィール
カーライフプロデューサー テル
1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。
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