「低消費電力技術を結集」、ルネサスが40nm車載マイコンの第1弾製品を投入:車載半導体
ルネサス エレクトロニクスは、40nmプロセスで製造する車載マイコン「RH850ファミリ」の第1弾製品として、ボディ制御システム向けの「RH850/F1xシリーズ」を発表した。顧客が求める低消費電力化に応えるため独自技術を結集したという。
ルネサス エレクトロニクスは2012年9月27日、東京都内で記者会見を開き、40nmプロセスで製造する車載マイコン「RH850ファミリ」(関連記事)の第1弾製品として、ボディ制御システム向けの「RH850/F1xシリーズ」を発表した。2013年4〜6月期から、消費電力の低減に特化した「RH850/F1Lグループ」のサンプル出荷を始める。RH850/F1Lグループの量産は2014年度から那珂工場(茨城県ひたちなか市)で開始し、2015年度には月産300万個まで量産規模を拡大する予定。その後、デュアルコアプロセッサや8Mバイトの大容量フラッシュメモリを搭載する高機能品種の「RH850/F1Hグループ」、消費電力を低減しながら性能も高めた「RH850/F1Mグループ」を順次投入し、3グループの合計で50品種以上を展開する計画である。
同社マーケティング本部で自動車システム統括部長を務める金子博昭氏は、「自動車のボディ制御システムには、自動車の基本機能である、走る、曲がる、止まるに関連するエンジン制御システムやシャシー制御システム、カーナビゲーションやメーターなどの車載情報機器を除いた、さまざまな車載システムが含まれている。そして、最も多くの車載マイコンを使用しているのもボディ制御システムだ。多くの車載マイコンを使うだけあって、ボディ制御システム向けの車載マイコンに対しては、顧客からの改良や改善の要望が多い。RH850ファミリでは、全ての車載システムをスケーラブルにカバーできるように、8つの製品シリーズを開発しているが、今回製品化第1弾がボディ制御システム向けになったのは、そういった顧客の要望に優先的に対応したからだ」と語る。
RH850/F1xシリーズの開発では、自動車メーカーや電装部品メーカーがボディ制御システム向け車載マイコンに求める低消費電力化に応えるため、「ルネサス独自のシステム技術、回路技術、プロセス技術を結集した」(金子氏)という。
まずシステム技術となるのが「シーケンサ」である。ドアの解錠信号を待ち受ける必要のあるキーレスエントリーや、バッテリー電圧を監視するシステムは、エンジン停止時でも一定周期で動作させておく必要がある。従来の車載マイコンは、一定周期で動作する際にも、プロセッサコアなどのメイン回路を起動していたため、その分だけ多く電力を消費していた。シーケンサは、一定周期で信号の入力値とあらかじめ設定した期待値を比較するための専用回路で、入力値が期待値の範囲外にあるときだけメイン回路を起動する機能を備えている。シーケンサの消費電力はメイン回路を起動するよりも小さいので、省電力化が可能になるという寸法だ。
回路技術では、「電源ドメイン」を導入した。この電源ドメインは、エンジン停止時にスタンバイ状態に入ったら、動作する必要のない回路(ISO領域)の電源を遮断して、必要な回路(AWO領域)だけを動作させておくというもの。先述したエンジン停止時でも一定周期で動作させておく必要のある車載システムであれば、システム技術のシーケンサと回路技術の電源ドメインを組み合わせることで、消費電力を従来比で3分の1以下に低減できるという。
プロセス技術による低消費電力化は、RH850ファミリの最大の特徴である40nmプロセスの採用によるものだ。例えば、フラッシュメモリを2Mバイト搭載するボディ制御システム向け車載マイコンのパッケージ面積を比べた場合には、90nmプロセス採用の既存品と比べて、RH850/F1Lグループは3分の1程度まで小型化できているという。「同じ機能を持つ半導体を小型化すれば、消費電力は小型化した分だけ低減できる」(金子氏)。さらに、先述した90nmプロセスの従来品と同じパッケージサイズであれば、フラッシュメモリを4倍の8Mバイト、通信用IP(Intellectual Property)を約2倍の37チャネル搭載するといった高機能化が可能だ。
2013年4〜6月期にサンプル出荷を始めるRH850/F1Lグループは、これら3つの技術に加えて、最高動作周波数80MHzという仕様に合わせたトランジスタの小型化などにより、さらなる低消費電力化を実現した。動作周波数1MHz当たりの消費電流は、他社製品の約3分の1となる0.5mAを達成している。
RH850/F1xシリーズは、ルネサスの90nmプロセス車載マイコン「V850E2/Fx4シリーズ」の後継となる。RH850/F1Lグループは、最高動作周波数が80MHz、フラッシュメモリの容量が256K〜2Mバイトで、端子数が48〜176本のQFPパッケージで提供される。
2013年度末からのサンプル出荷を目指すRH850/F1Hグループは、デュアルコアプロセッサの搭載や車載イーサネットへの対応などにより、車載ネットワークから得られる情報を用いて複雑な制御を行う用途に向ける。最高動作周波数は120MHz(デュアルコア)、フラッシュメモリの容量は3〜8Mバイトで、端子数が176本のQFPパッケージ、同208本と272本のBGAパッケージで提供される。
2014年度前半にサンプル出荷予定のRH850/F1Mグループは、消費電力の低減と処理性能のバランスを考えて開発された。車載ネットワークの通信を統合制御するボディコントロールモジュールなどの用途に向ける。最高動作周波数は120MHz(シングルコア)、フラッシュメモリの容量は1.5〜4Mバイトで、端子数が100〜176本のQFPパッケージ、同208本のBGAパッケージで提供される。
プロセッサコアの名称は「G3」
今回の発表では、RH850ファミリに搭載されるプロセッサコアの名称も明かされた。旧NECエレクトロニクスが開発したプロセッサコア「V850」をベースに開発しており、「G3」と呼ばれている。
金子氏は、「2014年度に量産を始めるRH850/F1Lグループは、当初は海外市場向けの出荷がほとんどだろう。2015年度も約70%は海外市場向けになる。RH850ファミリの残りの7製品シリーズも鋭意開発を進めており、2015年夏までには全て初期サンプルを供給できる状態まで持っていく計画だ」と述べている。
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