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ドラえもんの動力源に最適!? “手のひらガスタービン”が描くエネルギーの未来小寺信良のEnergy Future(21)(3/3 ページ)

手のひらサイズのガスタービンには、日本のエンジン製造技術の粋とエネルギーの未来が詰まっている。いままでの常識を超えた発電機の開発はどのように行われたのだろうか。実機の動作も動画で見てみよう。

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実用化後、世界は思いがけない方向に変わるかも?

 ではここで、現在プロトタイプでパッケージ化された発電機の“本物”をご覧いただこう。動作させたのはごく普通の会議室である。従来の発電機ならば、とても会議室内で動かせるものではない。


超小型ガスタービン発電パッケージの起動から発電開始まで

 デモパッケージで使用した燃料は、登山などで使われるガスカートリッジだ。スイッチを入れておよそ1分で発電を開始する。パッケージには点火前に空気を圧縮したり、停止動作中に内部を冷却するための動力源としてバッテリーを装備している。これも、稼働後はガスタービンの発電により充電している。


燃料供給部。奥に見える黄色い缶がプロパンガスボンベだ

 定格出力は、タービンそのものは400Wだが、プロトタイプのパッケージでは60W程度での動作を1つの基準にしている。現在の発電効率はまだ3%程度だが、テスト環境では5〜6%まで上がっている。さらに熱交換器を付ければ、18〜20%まで上がる見込みだ。


中央下部に超小型ガスタービンがある

 室内でも動かせる理由は、3つある。

1. 排ガスがクリーン

 ガスを燃料に使うと、排ガスはNOX(窒素酸化物)で15ppm、CO(一酸化炭素)で30ppm程度。灯油、軽油を使ってもNOXで30ppm、COで90ppm程度である。これはピストンエンジンと違って、連続した燃焼で燃料がきれいに燃え尽きるというガスタービンの特性によるところが大きい。


パッケージの排気部分。消音用の吸音材でダクトを構成している

2. 音が小さい

 動作音はジェットエンジン風の音色だが、音量的にはそれほどうるさくない。すぐそばにいればそれなりに聞こえるが、7m離れると47dBまで下がる。ガスタービンから発生する主要ノイズは、タービン部が回転する音だが、この音は回転数が上がるほど高音になる。高音になれば、かなりの部分を吸音材で吸収できるほか、空気中で急速に減衰するので、距離が離れれば聞こえなくなる。

 またこのパッケージでは33万rpmで回転しているが、設計上は50万rpmまで回転できる造りだ。将来的に100万rpm程度に耐えるようになれば、回転数がいまの3倍となり、ノイズの周波数も3倍の高さになる。つまり、人間の可聴音域を越えてしまうので聞こえなくなるという。

3. 排気温度が低い

 タービンからの排気は600〜700℃だが、試作パッケージからの最終的に排気される温度は70℃までさがる。600℃の熱風のそばを人が通ったらひとたまりもないが、70℃ぐらいであれば即どうにかなるような温度ではない。夏場の室内で長時間の運転は厳しいだろうが、冬場や寒冷地では問題にならないだろう。今後はさらに排気温度を60℃以下に下げるよう開発を進めるという。

キラーアプリケーションは“ドラえもん”?

 この発電機は、現時点の状態で完成というわけではない。ももちろん高効率化へ向けての改良は続くが、そもそもこの発電機はIHIで量産、販売されるわけではない。この発電システムが向くアプリケーションを、これから探していくことになるからである。

 現在フィットするのではないかと思われるのが、自走式ロボットの分野である。現在のロボットはバッテリー駆動がほとんどだが、重量と容量のバランスがネックになっている。電源を背負って動作するため、重くなればそれだけ不利になる。

 またロボットが要求する電力は、状況に応じて常に変動する。瞬間的に大きなエネルギーが必要になる場合は、リチウムイオンなどのバッテリーが有利ではあるが、持続性が問題になる。

 一方でバッテリーの対抗となるのが、燃料電池である。燃料電池は、高出力の電力が得られて長時間駆動できるというメリットがあるものの、ロボットに必量なエネルギー量を得るには、相当な重量になってしまう。

 この両方を満たすのは、内燃機関による発電機だ。そもそも燃料である石油やガスは、パワー密度、エネルギー密度が共に大きい。しかし、今度はエンジンの発電能力と比較すると、ロボットが要求している電力が小さ過ぎるという逆転現象が起こる。

 そこで丁度いいサイズと重さ、そして出力がそろっているのが、今回開発した超小型ガスタービンによる発電ではないか、というわけだ。ガンダムでもドラえもんでもいいが、実用的ロボットの発展に、エネルギー源がようやく出現したということかもしれない。

 ただロボットは、まだ研究主体の分野であるため、量産による低価格化が期待できるものではない。量産効果が出るほど数が出るアプリケーションが必要なのである。

 製品化は2015年の予定だ。それまでに、キラーアプリケーションを見つけなければならない。思わぬ産業とのコラボレーションが、未知の可能性を開くかもしれない。

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



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