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日本の強さと弱さをよく理解すれば、また強くなれるベンダー社長が語る「CAE業界にまつわるエトセトラ」(3/3 ページ)

日本の「現場合わせ自慢」、スペースX、クラウド、そして「解析専任者は出世できない」件……などなど、CAE業界を巡る話題と、日本製造業が抱える課題について、CAEベンダーのトップが語り合った。

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「解析専任者は出世できない」の話

藤川氏 ある大手企業ではOSSソルバーを流体解析で使っています。そういった場合、OSSソルバーが“無償”ということで、たまに勘違いされますが、100%と言っていいほど、コストダウンのためには使われていません。OSSソルバーは、自分でプログラム(コード)が書ける方のみが使えます。流体の場合、流体ソルバーの上に物理モデルを積み上げて現象を解析します。研究テーマはあくまで「物理」にあり、「ソルバー」は何でもよいのです。例えば「OpenMP」のような、システム的なところにあまり時間を割きたくないものです。

 流体解析ソルバーの上に、自社の研究テーマなどの機密情報を乗せたい場合があると思います。そのためには、商業ソルバーだと、ベンダーに依頼して対応してもらうのに時間と費用が掛かります。そもそも機密情報ですから、なるべく外に出したくないものです。そこで、自社にあるOSSソルバーを活用します。

加藤氏 OSSソルバーは、自分でプログラムが書けなければ、あまり役に立たないものです。NastranだってLS-DYNAだって、OSSソルバーでした。今も(OSSの)Nastranソルバーは、安価で買えます。しかし誰でも使えるわけではないので、私たちのようなソフトウェアベンダーが支援しています。

 OSSソルバーが扱えるような技術者は、最近、減ってきました。以前は、自動車メーカーごとで、そのレベルの専門家が必ずいたものでした。例えば、有名な方だと、理化学研究所の姫野龍太郎さん。この方は、元日産自動車ですね。自動車設計よりも研究を選びました。いまは、(野球などの)変化球の研究をしています。

――企業の解析専任者は、やがて研究機関に行ってしまうものなのですか?

加藤氏 企業として、そういう方々の居場所がなくなっている傾向のように思います。基礎研究は、製品設計にすぐに役立たないからでしょうか……。本当は企業でも大事にしないといけないのですが、国家や研究機関の仕事として振られがちですね。

藤川氏 日本では、「解析専任者」「開発者」「研究者」といわれる人たちは、なぜか企業の中で出世が遅れる傾向があるように見えます。実験部隊や生産現場の方が、発言力が強く、決定力も強いですね。

加藤氏 日本の企業は、設計開発よりも生産に近い人の方が上に行ける傾向ですね。

――いまも多くの会社で、そうなのですか?

藤川氏 そういう会社が多いのは確かです。

加藤氏 ところが最近、解析に長く携わってきた人で、――しかも、結構若手です――部長になった人がいましたよ?

――以前、MONOistのセミナーや座談会企画でも「解析専任者は出世できない」という話が出ましたが、やっとその状況が打開されつつあるということですか?


加藤氏

加藤氏 その人は40代で部長になりました。これはまだ“特異点”なのかもしれませんが、今後、そういう人たちがたくさん増えていけばいいですね。解析専任者出身の本部長、役員……という時代が来てくれたら。私も、ユーザーさんたちに「もっと頑張ろう! 上にいこう!」といつも声を掛けています。

 偉くなれた人は、広い視野をお持ちです。解析をやっているけれど、1つの分野だけ“深く狭く”追求するオタクではないのです。企業全体におけるCAEの位置付けを考えています。だから、高く評価されたのでしょう。


日本もシステマチックなモノづくりへ

加藤氏 日本の優れたロボット技術を利用して生産を海外へ移行する。これは今後もゆるぎない動きでしょう。特別な箇所は、設計をブラックボックス化して日本国内で握ること。それから、設計が弱いがために、海外で組み立てられないという問題を解消する必要があります。そういったことを、企業単位だけではなく、国家レベルで考えることが大事です。

藤川氏 「このままだと、日本は世界に置いていかれる」という焦燥感と危機感を日々覚えています。今の日本製造業は、グローバル化せざるを得ません。生産だけではなく、設計も海外へ移管しています。先ほどお話しした“日本独特な”やり方(現場合わせ)は、やめた方がよいと私は思います。それが正しいかどうかは分かりませんが、少なくとも安全ではないかと。そのためにも、「設計思想を合理化し見直すこと」と、「グローバルな設計環境に合わせたシステムで統一すること」が必要となるでしょう。

 グローバルな分散設計をするためには、プロセスの中にある「日本ならではの、付加価値が高い部分」(設計)をしっかり押さえること。かつ、それを計画的に展開すること。そして、それを国家レベルで考えて、実施するべきだと思います。

――お二方とも、国家レベルでの思想の統一が重要というわけですね。企業単位では?

加藤氏 企業については、もう少し競合分析に力を入れるべきではないかと思います。日本企業は、マーケティングと製品をうまくマッチングさせることが苦手です。開発部隊は、最先端の技術にこだわって、非常に良い物を作ろうとします。しかしマーケットのニーズは、「果たしてそこにあるのか」までは分からないのです。相手が一体何をやっているか分からない中で戦っているようなもの。これは危険です。

藤川氏 いつか、「いまの日本は、第二次世界大戦と同じことを繰り返している」と加藤さんがお話ししていたことがありましたね。

加藤氏 『失敗の本質』の話ですね。日本製造業は、過去、非常に強かったのに、いまでは急激に弱くなってきています。それは、日本軍が日清・日露戦争で勝ち、第二次世界大戦の途中から負け出したのと同じロジックなのです。要するに、敗因分析ができていないのです。

『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』:6人の研究者による、社会科学面における旧日本軍の戦史研究をまとめた学術書。


藤川氏 「運も実力のうち」とよく言いますが、ビジネスの世界では違うと思います。運で勝つと、その後に負けてしまうものですね。

――今回はお忙しいところありがとうございました。

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