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「SiC」と「GaN」、勝ち残る企業はどこか?(前編)知財で学ぶエレクトロニクス(1)(5/5 ページ)

品質やコストと並んで、設計開発者が関心を持たなければならないのが、「特許」だ。製品設計の前段階から、自らの新たな視点に基づく特許出願を心掛けることが重要だが、まずは技術者が自ら特許について調べるためのヒントが必要だろう。本連載では、特定分野を毎回選び出し、その分野に関する特許の企業別、国別の状況を解説しながら、特許を活用する手法を紹介する。

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Creeと組んだ三菱化学

 三菱化学は1971年に販売を開始したGaAs(ガリウムヒ素)ウエハーに続き、LED用GaNウエハー向けに開発を進めてきました。そして、「MOCVD装置によるLED製造用GaN系エピタキシャルウエハーの量産技術」と「NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)の製造ノウハウ」を融合させ、電子デバイスへの利用が可能なGaN系エピタキシャルウエハーの量産体制確立を目指しています。既に、LED向けGaNウエハーについて、Creeのウエハー製法や製品に関する特許の独占実施権を獲得しています*20)

*20) 三菱化学とCreeのライセンス契約の発表資料(PDF)。三菱化学の有価証券報告書 第17期(平成22年4月1日-平成23年3月31日)のp.32には以下の記述(PDF)がある。「契約締結先:(アメリカ)クリー社、内容:窒化ガリウム基板特許の実施許諾、契約締結日:平成20年11月7日、有効期間:平成20年11月から特許消滅日まで、対価:一時金及びランニング・ロイヤルティー」。

 フランス国立技術研究機関(CNRS)発のベンチャー企業Lumilog(ルミログ)は、現在SAINT-GOBAINの傘下に入り、当初から電子デバイス用GaN基板*21)のユーザー開拓に進み、低価格化を狙っています。

*21) SAINT-GOBAINのGaN基板に関するWebページ

 東レ・ダウコーニングはGaN on Siへの取り組みも加え、広範囲のデバイスニーズをカバーできる体制を目指しています*22)

*22) 東レ・ダウコーニングによるGaN基板に関するWebページ

 日立電線は、サファイア基板とGaN成長層との間に、微細な網目構造(ナノネット)をもつTiN(窒化チタン)の薄膜を挟み込んで結晶を成長させています*23)。結晶成長時に、TiN膜の界面にミクロンオーダーの微小なボイド(空隙)が多数形成されるため、ダメージなく大面積のGaN結晶を簡単に剥離できる「ボイド形成剥離(VAS)法」を開発し、高品質なGaN基板の生産・販売を開始しています。VAS法とナノネットによる製造技術の確立で、面内均一の低転位密度を実現するLED用GaNエピタキシャルウエハーに参入しています。いずれはパワー半導体用への展開も考えられます。

*23) 日立電線による「大型高均一GaN基板の量産技術開発」に関する概要説明

 2007年に古河機械金属との業務提携*24)で強固な経営基盤を構築したパウデックは、高品位GaN結晶を安価なサファイア基板上に形成したGaNエピタキシャルウエハー供給を目指しており、パワー半導体の試作にも取り組んでいます。

*24) 古河機械金属とパウデックの資本・業務提携に関する発表資料(Internet Archive)。

次回は地域別の特許件数を分析

 次回は、特許情報に基づき、地域ごとに次世代パワー半導体ウエハーの事業開発をふかんしてみることにしましょう。特許の検索方法についても紹介します。

筆者紹介

菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社

メールアドレス:sugata.masao[a]tbz.t-com.ne.jp

1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修了(工学修士)。

1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。

本連載に関連する寄稿:

2005年『BRI会報 正月号 視点』

2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435


おことわり

本稿の著作権は筆者に帰属いたします。引用・転載を希望される場合は編集部までお問い合わせください。



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