町工場発! 面白ガジェットとクラウドファンディング:マイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(23)(1/2 ページ)
「iPhoneをカッコよく振り回したいぜ!」という社長の野望!? をかなえる面白ガジェット開発秘話。ニットー 藤沢氏が選択したユニークな開発資金調達の手段とは。
前回に引き続き、ニットー(横浜市金沢区) 代表取締役 藤沢秀行氏によるマイクロモノづくり事例を紹介します。藤沢氏が開発したヌンチャク系iPhoneケース「iPhone Trick Cover」(以下、Trick Cover)の概要や開発の経緯などは、前回の記事をご覧ください。
藤沢氏はTrick Coverの開発で、「クラウドファンディング」というユニークな資金調達の仕組みを利用しました。今回は、その取り組みについて紹介しながら、町工場の製品開発においてクラウドファンディングを利用するメリットや注意点などを考えていきます。
クラウドファンディングって?
クラウドファンディングとは、個人や企業などで企画したイベントや製品などの情報や画像、動画などをWebサービスに掲載し、「このプロジェクトを応援したい」と思ったユーザーから少額の寄付が受けられるサービスです。米国から発祥したサービスですが、1年ほど前から、日本国内でもその事例が徐々に増えてきています。
われわれは以前から、マイクロモノづくりによる製品開発の際、町工場がクラウドファンディングを活用して開発資金調達することを勧めてきました。しかし、それを本当に実践したという大胆(?)な町工場は、enmonoのネットワーク内の企業では見当たりませんでした。そのため藤沢氏から「Trick Coverをクラウドファンディングに参加させ、開発資金の一部を捻出したい」と相談を受けたときは、正直、驚きました。
われわれは、「これは、クラウドファンディングでも成功するプロジェクトになりそうだ」と直感しました。なぜなら、この製品には「動き」があって、「非常に分かりやすいもの」だと思ったからです。前回紹介したデザイン・フェスタ(デザフェス)出展の際も、日本語が通じない外国人来場者が、Trick Coverのデモンストレーションを見て、笑顔になっていました。「笑う」ということは、「瞬時に、その製品を理解し、受け入れてくれた」という証であって、とても大切なことです。たとえ言葉が通じなくても、しぐさから感じ取ることができるというわけなのです。
Trick Coverは娯楽要素が強いガジェットです。日本国内に幾つかあるクラウドファンディングのサービスの中では、ガジェットに特化したクラウドファンディングサイト「Cerevo DASH(CAMPFIRE)」が適しているとわれわれは考えました。
寄付型のクラウドファンディングでは、パトロン(寄付者)への「対価」(インセンティブ)を設定する仕組みになっています。この「対価」の設定内容が、目標金額に到達するか否かの大きなポイントになります。われわれは、この対価に町工場ならではの「対価」の設定があると考えました。
そこで、一定以上の金額を寄付してくれたパトロンに対しては、「工場見学と部品加工体験のイベントを企画し、無料招待してはいかがだろうか」とわれわれから藤沢氏に提案し、実施することになりました。
投稿動画を「日本の町工場からワクワクしたモノづくり」というテイストに
クラウドファンディングのプロジェクトに掲載するプロモーションビデオ(PV)を制作するにあたっては、藤沢氏と十分な打ち合わせを設けました。
藤沢氏が既に制作していた動画では、製品の面白さや、トリッキーな動きなどが十分に表現されていました。さらに、「日本の町工場が作り出す、ワクワクしたモノづくり」や「現場感」をもっと表現してみたらいいのではないかと、われわれが意見を述べました。具体的には、「ニットーの工場内で、Trick Coverの設計や加工、組み立てに取り組んでいる様子を撮影して、動画に組み入れてみては?」というアドバイスでした。
その結果、「日本の町工場から、ワクワクしたモノづくり」というコンセプトが明確になり、PVの完成度はより高くなったと思います。それが、以下の動画です。
目標金額の設定も非常に重要
クラウドファンディングで成功するためには、「目標金額設定の仕方」が非常に重要になります。通常、「購入型」(実際には「購入」ではなく、「寄付に対するお礼」なのですが)と呼ばれるクラウドファンディングサイトでは、「All or Nothing」(オール・オア・ナッシング)方式で、寄付金額が目標に到達しない場合は、「プロジェクト失敗」ということになります。つまりプロジェクト自体が成立しないことから、寄付金の支払いが発生しないのです。ですから、設定する目標金額を下げるほど、プロジェクト成功の確率が高まります。一方、設定金額が低過ぎると、「パトロンに提示した対価を支払う」という約束すら果たせず、資金が不足してしまうという事態が起こり得ます。
ですからプロジェクトが成功した場合に発生する金額をある程度正確に見積もった上で、金額設定するのが望ましいです。一度プロジェクトが達成した後も、掲載した製品に魅力があればあるほど、急激に寄付金額が伸びていくのも、購入型のクラウドファンディングのからくりの1つです。それも加味した金額がいいでしょう。
「モノを作れる」町工場にこそ、クラウドファンディングのメリット
このようにしてスタートした、「町工場初のクラウドファンディング・プロジェクト」は、われわれの予想をはるかに超え、リリースからわずか2週間で目標金額の50万円を突破しました。
町工場という、これまでのクラウドファンディング・プロジェクトでは見られなかったカテゴリのプロジェクトが、わずか2週間で、比較的大きな金額の寄付を集めて成立したというのは成功事例といっても過言はないでしょう。
いま、私がこの原稿を執筆している時点での寄付金合計額は、既に100万円を突破しており、しかも、まだ伸び続けています。
デザイナーやクリエイターが製品を企画し、クラウドファンディングでお金を集めても、特に量産が必須になるモノづくり系プロジェクトの場合では、結局、どこかの工場に発注することになります。ですから「モノを作れる」町工場が、自ら製品を企画して、クラウドファンディングを活用できれば、そのメリットをより大きく享受できるといえます。
今回のTrick Coverのプロジェクトは、そんな意味でも“分かりやすい成功事例”ではないでしょうか。
それから、このプロジェクトで注目したいのは、町工場として製品開発資金の一部をクラウドファンディングで集めるということを「理論ではなくて、実践で証明した」ということです。
日本中の町工場が自社製品開発のためにクラウドファンディングを活用する時代は、いずれやってくると私は思います。今回の事例は、その「小さな一歩」かもしれませんが、町工場にとってみれば、大きな飛翔だったのではないでしょうか。
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