寒い秋田と暑い沖縄を電気バスが走る、本格運用に向けた実証実験を開始:電気自動車
地方自治体による路線バスへの電気バス導入に向けた取り組みが始まっている。東京アールアンドデーが秋田県と沖縄県に納入した電気バスは、冬寒い秋田県と、夏暑い沖縄県、それぞれの地域の特性に合わせて開発された。
地方自治体が主導する電気バスの実用化事業が進展している。都市部では鉄道や地下鉄が整備されているものの、郊外や地方における主力公共交通機関は路線バスになる。あらかじめ走行距離が決まっている区間を走る路線バスは、搭載する電池容量によって走行距離が制限される電気バスの運用に最適である。内燃機関タイプのバスと置き換えることで、排気ガスの低減や低公害化を図ることもできる。
電気自動車(EV)ベンチャーの東京アールアンドデー(東京R&D)は、秋田県と沖縄県に、同社が設計・製造した電気バスを納入したと発表した。両電気バスは、冬寒い秋田県と、夏暑い沖縄県、それぞれの地域の特性に合わせて開発された。
まず、秋田県では、同県の「EVバス技術力向上事業」を実施する「あきたEVバス実証コンソーシアム」に、いすゞ自動車の「エルガミオ」をベースに開発した中型電気バスが納入された。同電気バスは「ELEMO-AKITA」と名付けられている。7月21日には、秋田市中心部にある「エリアなかいち」で出発式を行うとともに、一般向けの試乗会も開催する予定だ。
ELEMO-AKITAの外形寸法は、全長8990×全幅2300×全高2980mmで、車重は8210kg。乗車定員は、座席23人、立席31人、乗務員1人の計55人。走行モーターはUQM製で、最大出力は150kW、最大トルクは650Nmである。最高速度は毎時100kmで、勾配が12%までの坂を登ることができる。リチウムイオン電池はEnerDel製で総容量は24kWh。満充電からの走行距離は36kmとなっている。充電方式は、AC100Vもしくは200V電源を使った普通充電と、CHAdeMO方式の急速充電に対応した。
電気バスの屋根に設置した、コンソーシアム参画企業が製造する太陽電池パネルから、補機類を動かす24V系の電力を供給することで、走行用電池への負荷低減を図った。この他、電気バス用の車両接近通報装置もコンソーシアム参画企業が提供している。
さらに、寒冷地対策として暖房用の燃焼式ヒータを装備している。これにより、暖房に電池の電力を消費しないので、夏季と同等の走行距離を実現できる見込み。運用するバス路線に合わせて電池搭載量を抑えて、電気バス導入に必要なコストも低減している。
今後は試験走行を行いながら、2013年内を予定している本格運用に向けた準備を進める。試験走行では、あきたEVバス実証コンソーシアムに参画する秋田県内企業が製作した電気バス用部品の実証検証を行いながら、秋田県の環境に最適化するための改良も施していくという。東京R&Dは、秋田県での運用を目指すELEMO-AKITAをベースに、寒冷地向けに電気バスを展開する計画だ。
一方、沖縄県では、同県の「平成23年度(2011年度)EVバス開発・実証運用事業」向けに、いすゞ自動車の「ジャーニーK」をベースに開発した中型電気バスが納入された。2012年7月18日には、沖縄県庁で「ガージュ号」という名称で公開されている。なお、東京R&Dは、同事業を受託した共同体の代表となっている。
ガージュ号は、コストを低減するために中古車をベースにしている。外形寸法は、全長8990×全幅2295×全高3005mmで、車重は7460kg。乗車定員は、座席21人、立席32人、乗務員1人の計54人。走行モーターはUQM製で、最大出力は150kW、最大トルクは539Nmである。最高速度は毎時80kmで、勾配が12%までの坂を登ることができる。リチウムイオン電池はEnerDel製で総容量は48kWh。満充電からの走行距離は44kmとなっている。充電方式は、普通充電とCHAdeMO方式の急速充電に対応した。
この他、電池の残容量や電力の回生量など、電気バスの走行情報を乗客に知らせる「電気バスモニタリングシステム」を搭載している。
ガージュ号の試験運行は8月末に始める予定。東京R&Dは、試験運行のデータを基に、沖縄県のような海洋性亜熱帯地域での運用に適した電気バスの仕様や運用方法について検討する。試験結果を反映した電気バスを順次製造し(2012年度は1台)、複数台の電気バスによる運用も目指す。
沖縄県は、他地域に比べて、運輸部門の温室効果ガス排出割合が高い。このため、地球温暖化防止対策の観点から低公害車への転換や公共交通機関の利用促進を進めており、EVの導入にも積極的だ(関連記事)。ガージュ号を開発した事業でも、路線バスへの電気バスの導入による、渋滞の激しい沖縄本島南部都市部の公共交通網の低公害化や、電気バスの効果的な運用による公共交通の利用促進などを目的としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 紙屋 雄史氏 早稲田大学 理工学術院 環境・エネルギー研究科教授:電動バスの実用化に注力、実質価格は3000万円に
早稲田大学の環境・エネルギー研究科では、電動バスの実用化を主な目標として電動車両に関する研究を行っている。同研究科教授の紙屋雄史氏に、2010年10月から走行実験を開始した電動バス「WEB-3」を中心として、研究の状況を語ってもらった。 - 早稲田大学が新型の電動バスを開発、非接触給電システムも搭載
早稲田大学の環境・エネルギー研究科は、2002年から電動バスの実用化を主な目的とした研究を行っている。2010年10月には、リチウム(Li)イオン電池を搭載した新型の電動バス「WEB(Waseda Advanced Electric Micro Bus)-3」を発表した。 - メーターやカーナビはiPad、インホイールモーターEVが沖縄を走る
AZAPAは、沖縄県産業振興公社の出資を受けて開発したインホイールモーター電気自動車(EV)「AZP-LSEV」を公開した。EVの制御とITを融合させていることを特徴とする。