「国内家電メーカーのテレビ事業に未来はあるのか」――敗因を見極め、今こそ感覚のズレを正すとき:本田雅一のエンベデッドコラム(15)(3/3 ページ)
「日本のテレビはもう売れない」「韓国勢に負けた」――。日本メーカーが手掛けるテレビ事業は韓国メーカーに追い抜かれ、“敗者”のレッテルを貼られてしまった。しかし、映像品質や3D技術に目を向けてみると、日本は世界トップレベルの力を持っている。敗因を見極め、フォーカスを正しい位置に再設定できれば、この苦境から抜け出せるはずだ。
フォーカスを正しい位置に再設定できるかがポイント
いうなれば、企業としてフォーカスしていたポイントがズレていたということだ。フォーカスがズレていては、どんなに良い技術をもって良い製品を作ろうとも、消費者の心には響かない。
ただし、繰り返しになるが負けた理由を、安易に判断するのは危険だ。
例えば、「3Dテレビを作ったから日本メーカーはダメになった」という指摘を耳にするが、実は海外に目を向けてみると「3D表示機能(3D表示は機能であって、3Dテレビという言い方はやや的が外れている)」の重要性は年々増している。
中国では、中央電視台が3D専門チャンネルを運営し、政府が3Dコンテンツの制作を後押ししていることもあり、認知はかなり広がっている。そして、先日、取材で赴いた英国では、BBCがスポーツ中継、(オペラなどの)舞台もの、それに音楽コンサートなどの特別なイベントを定期的に3Dで放送。フランスでは、3チャンネル分も3Dチャンネルが割り当てられていると聞く。さらに、注目のロンドンオリンピックの放送では、日本以外、大多数の国が3Dのライブフィードを購入している。
もちろん、2Dに比べてマジョリティにはなってないが、世界的に3D表示機能が当たり前になってきたこともあり、“メーカーがテレビを買い換えさせるために3Dテレビを作った”などの邪推なしに、自然に新しい機能として受け入れられるようになった。
ただし、テレビの3D表示機能の品質面については、日本メーカーが世界をリードしている(パナソニックの新しい液晶テレビは、3Dの品質が非常に高く驚かされた)ものの、グローバルで“3D”をキーワードに利益を上げているのはサムスン電子かもしれない。彼らは、主要ラインアップの全てを3D化している。日本メーカーが3D映像の搬送フォーマットやそのための技術開発、国際標準策定の調整などを担ったものの、結果、利益を得られなかったのはなぜか。その理由をここできちんと考えなければならない。
「テレビとはこうあるべき」「テレビとはこういう製品なのだ」といったことを決めるのは、メーカーではない。どんな製品を欲しいと思うか。どんな製品ならば、ユーザーは満足してくれるのか。高精細・高画質を目指したのも、元はといえば消費者がそれを望んだからだ。今でも高精細・高画質を求める声は根強いが、ユーザーの満足度を高める要素は増えている。
2005年から力を付け始め、好業績を続ける韓国メーカーには、多くのパートナー企業(これまでは日本のメーカーにアプローチをしてきた)が集まっている。テレビ事業を取り巻く状況は日本と同様に厳しいが、技術面での基礎は決して弱くはない。
ソニー、パナソニック、シャープと一度に変わる新たな経営者、経営体制が、フォーカス位置を正しい位置に再設定できるのか。そして、ニーズの中心をきちんと捉えることができるのかが、今後発表される各社の中期計画におけるポイントとなるだろう。
筆者紹介
本田雅一(ほんだ まさかず)
1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。
Twitterアカウントは@rokuzouhonda
近著:「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(ソフトバンク新書)
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