日本の製造業の伸びしろはサービス分野にある――米PTC ヘプルマン氏:PLMニュース
PLMをもう1つの基幹システムと位置付けるPTC。同社の社長兼CEOであるHeppelmann(ヘプルマン)氏は「プロダクト」だけでなく「アプリケーション」「サービス」領域の重要性を語ってくれた。
米PTC社長兼最高経営責任者 James E. Heppelmann氏へのインタビューを行う機会を得た。日本市場の動向や、ますます高度化するエレキ・メカ・ソフト連携開発の話題を中心に、直近の取り組みについて聞いた。製造業界向けの製品をグローバルで展開する同社の動向から、業界の流れを読んでみよう。
◇ ◇ ◇
――最近のPTCの動きの中で、現代・起亜グループにおけるWindchill選定は大きなニュースだった。他の顧客企業からの反応は?
へプルマン氏 現代グループにおけるWindchillの導入は、選定からのスピードが非常に速かった。2010年の選定後、2011年内には導入の第一段階を完了している。通常は数年かかる作業を、わずか1年ほどで達成したことになる。この導入速度は、日本のユーザー企業も関心を寄せているようだ。
一方で、日本が先行している分野も少なくない。その1つがALM(アプリケーションライフサイクル管理)の領域だろう。
――ALMといえば、買収したMKS Integrity(現・PTC Integrity、関連記事)は製造業で一定のシェアを持っているが、買収後の状況は?
へプルマン氏 買収後は特にPTC製品群との連携を強化しており、組み込みソフトウェア開発に特化した製品として生まれ変わっている。もともと、特に自動車業界、地域としては日本とドイツで高いシェアを有している。中国や韓国の市場については、今後PTCのネットワークを通じて展開していくことになる。
欧州はギリシャやスペインの経済状況が懸念されているが、ことドイツの製造業に限っては非常に好調。日本や北米の製造業もドイツをもっと見習ってほしい、と個人的には思っている。
――最近は、多くのPLMベンダーがSystems Engineeringをキーワードとしているが、PTCの場合はどこが強みになるか。
へプルマン氏 PTCにはIntegrityという強力なツールがある。PLMベンダーがいうSystems Engineeringには、機構設計寄りのものやエレクトロニクス寄りのものがある。ソフトウェア領域についてはあまり強固ではない印象だ。一方で、既存のソフトウェアベンダーもSystems Engineeringを語り出しているが、彼らはメカやエレクトロニクスには精通していない。本来であれば、Systems Engineeringは、エレキ・メカ・ソフトウェアを同時並行で管理していかなくてはならない。この点で、PTCはバランス良く全体をカバーする体制を整えつつあると考えている。
――Systems Engineeringといった場合、ソフトウェアやメカ領域だけでなく、エレクトロニクスの領域もカバーする必要がある。PTCとしてはプリント基板などの設計領域にコミットする予定はあるか?
へプルマン氏 将来的にはそうしたことも検討していきたい。しかし、現段階では既存のツールベンダーとのパートナー関係を重視していく。
――現段階では欧州の、特に自動車業界ではALMに関しては他社製品が主流と聞くが、その中でIntegrityのポジションはどのようか。
へプルマン氏 以前から使われていた大手ベンダーの提供するソフトウェア管理ツールは、そもそも実装が非常に古いものだ。それゆえに、他のシステムとの連携には技術的な問題が多い。現在、機能安全の要求への対応には、複数のシステムをきちんと連携して情報を管理する必要がある。Integrityへの乗り換えが多いのはこうしたことも要因だろう。
現在は、自動車メーカーの選定に追随してサプライチェーンに連なる部品メーカーが採用するケースが多い。また、最近では車載半導体メーカーが独自にIntegrityを選定したケースもある。
――もう1つ、大きなニュースとしてはCreo 2.0のリリースがあった(関連記事)。
へプルマン氏 CADのビジネスに関していうと、Creoの収益はライセンス/サポートの2つに分けられる。サポートの継続ユーザー数が増加しており、Creoの品質についての自信となっている。2011年度のCADビジネスは、直近15年で最大の伸びだった。
CADライセンスについていうと、中国でのライセンス販売の伸びが非常に大きい。中小規模の企業での新規導入が増えている。その理由には、中国の製造業がそもそも成長過程にあることに加え、われわれの既存の代理店が成長していることが挙げられる。
――設計・開発部門へのアプローチ以外に、PTCはサービス部門へのアプローチにも注力しつつある印象だが、最近の状況は。
へプルマン氏 コモディティ化が進んだ分野では、サービス品質が企業の収益に大きな影響を与えている。個人的な印象としては、特に日本はその傾向が強い。日本ではCAD市場やPDM市場は成熟しているが、サービス分野については、まだまだ成長途上だと感じている。ArbortextやWindchill Quality Solutions (旧:Relex)のような製品を必要とする企業はこれからも増えてくるだろう。
今回の訪日で、ある重工業メーカーの担当者と話す機会があった。その企業の事業計画では、サポート・サービスの部分を今後の収益源の中心に位置付けているようだ。今後、この企業のようにモノそのものではなく周辺領域の品質で差別化や付加価値の向上を図る動きは活発になっていくだろう。
設計・開発領域と異なり、サービス情報管理の分野は導入成果を数値化しやすい。例えば部品在庫の管理なども、効率化すればそれは企業の収益に直結するため、非常に分かりやすく、導入障壁も低い。
――ターゲット層は異なるが、日本の国内ベンダーもサービス品質について語りだしている。これについてはどう考えるか。
へプルマン氏 日本のツールベンダーのそうした動向はウォッチしている。しかし、それらはあくまでも日本市場での競合であり、グローバルなものではないと考えている。日本国内でミニマムに考えるならばそれでもよいだろうが、グローバルでものを売っていく場合は、PTCのようなグローバルネットワークを持ったベンダーをパートナーにする必要がある。
コーポレートメッセージも、「Technology solutions that transform how products are created and serviced」と、Serviceの文字を加え、現在の注力分野に併せて変更している
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