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あなたが作っているコレ、一番大切な機能はどれ? に即答できますか雑談・品質工学 長谷部先生との対話(1)(2/2 ページ)

想定を超える利用者の使い方を想定して品質を作りこむって? 「理解するのに随分時間がかかった」というタグチメソッドコンサルタント 長谷部先生に、体当たりで疑問をぶつけてみた。

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全部予想通りの結果だったら、それは意味がないこと。もっと失敗を

――「これが基本の機能」と思ってやってみたら、違った、ということはありませんか。

長谷部 いくらでもありますよ。一回やってみると、これじゃなさそうだと分かります。でもそれは、階段を1つ上ったということなんですよね。また次のアイデアを試してみて、次の階段を上がって……と、知らないうちに階段をどんどん上っていく。つまり、技術力が付いてくる。むしろ失敗した方がいい。早く失敗した方が早く分かりますからね。実験室で失敗すれば、どんどんノウハウをためていけるから、市場には完成したものが出せる。「早く、うまく、安く」失敗するということですよ。

 本当の意味の失敗は、こうなるだろうと予測して実験したら、全部その通りになったという場合。これでは、何にも新しい情報を得られないですよね。こうなると思ったけど、やってみたら何か新しい情報が得られたっていうのが成功なんですよ。

手っ取り早く安く失敗して、設計で全部作りこむ

――「安く」失敗するためにシミュレーションという方法もありますね。

長谷部 シミュレーションの実験は最近注目されていますね。いまのシミュレーターは、メカ的なものもエレキ的なものも、かなりの精度でシミュレーションできますからね。

 電気回路には昔から使われていますが、1つ1つのICのバラツキが分かれば、回路全体でどれだけバラツキが出るかが全部計算できちゃいます。そうすると、どういう組み合わせの設計がいいか、さらにいえば、「ここは重要だからちょっと高級な部品にした方が安心だけど、こっちは安い部品でも大丈夫……」というような判断ができて、一番低コストで信頼性の高い製品が作れます。

 メカ的なシミュレーションでは、使い捨てカメラのシャッターの機構の事例があります。使い捨てカメラは安いものなので、製造ラインで調整なんてやっていられません。自動的に組み付けて、ホイっと出荷したい。だから設計で全部作りこむわけですよ。そのメカ的な動きを全部シミュレーションで実験した。もう10年ぐらい前の事例ですが、学会では有名な話です。

――小さなユニット単位でシミュレーションするといいのでしょうか。

長谷部 よく「部分最適≠全体最適」といわれます。最後に実機で全体をもう一回試験しなきゃいけないし、細かいところは現物合わせのときにチューニングするんだから、シミュレーションで細かい実験をやってもしょうがないですよね。粗くすると精度は変わるかもしれないいけれど、動きの本質はあまり変わらない。粗くして、計算できる回数、実験の回数を増やした方が、総合的にはいい情報が得られるんですね。ただし、大きいと実験もシミュレーションも大変になるので、どの単位がいいかは検討する必要がありますね。

――最近のシミュレーターはかなり精度が高いようですね。

長谷部 使う側にとっては、シミュレーターは使い勝手がよくてスピードが速くて、パラメータが自由に変えられたり、いろんな組み合わせが簡単にできたりする方が、実はありがたいんです。技術の素性が、いいのか悪いのかをシミュレーションで早く知りたいわけだから、現実を正確に予測できなくていい。シミュレーションはばらつかないけど、現実は部品がばらついたら測定値もばらつくのだから、精度を追求することはあまり重要じゃないんですね。性質とか傾向が分かればいいんです。

タグチメソッドのソフトウェアへの展開

――ソフトウェアでも活用できるでしょうか。

長谷部 ソフトでも、設計のアイデアが幾つか出てきたときに、どの設計の素性がいいかを見極めるために、タグチメソッドのような考え方でノイズ条件を設定して、シミュレーションするのはいいかもしれないですね。人は実際にどう使うのかということもノイズ因子として取り込めれば、ヒューマンインターフェイスなどの評価にも活用できるんじゃないでしょうか。

 タグチメソッドの考え方はいろいろなものに使えます。技術の分野も広いし、適応範囲が広いので、うまく活用していくといいですね。

*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***

 適用範囲が広いことも、タグチメソッドを分かりにくくしている要因かもしれません。次回は長谷部先生自身がどのようにして品質工学を学んでいったのか、どう学んだらよいのかを経験を交えて教えていただきます。お楽しみに。

長谷部先生略歴

のっぽ技研
長谷部 光雄(はせべ みつお)
品質工学会会員、日本信頼性学会会員

株式会社リコーで技術開発センター所長を歴任後、技師長および顧問として同社のグループ会社全体を対象に品質工学の指導と推進を担当。
主な著書に『ベーシックタグチメソッド』(日本能率協会マネジメントセンター、2005年)、『技術にも品質がある』(日本規格協会、2006年)、『品質力の磨き方』(PHP研究所、2008年)など多数。



筆者紹介

杉本恭子(すぎもと きょうこ)

東京都大田区出身。

短大で幼児教育を学んだ後、人形劇団付属の養成所に入所。「表現する」「伝える」「構成する」ことを学ぶ。その後、コンピュータソフトウェアのプログラマ、テクニカルサポートを経て、外資系企業のマーケティング部に在籍。退職後、フリーランスとして、中小企業のマーケティング支援や業務プロセス改善支援に従事。現在、マーケティングや支援活動の経験を生かして、インタビュー、ライティング、企画などを中心に活動。


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