EVの「走行中給電」を実現へ、道路からタイヤを介して給電する基本原理を確認:電気自動車(1/2 ページ)
豊橋技術科学大学の波動工学研究室は、道路の路面下に設置した電極から、タイヤを介して車両内に電力を供給する技術の基本原理を実証したと発表した。実用化されれば、EVに大容量の電池を搭載せずに長距離を走行できるようになる。
現時点における電気自動車(EV)の最大の欠点は走行距離が短いことであろう。例えば、日産自動車の「リーフ」はJC08モードで200kmとなっているが、暑い夏や寒い冬に空調を使えば、走行距離はもっと短くなる。走行距離を伸ばすためには、搭載する電池の容量を増やせばよいものの、その分価格が高くなってしまう。2012年6月22日に米国で発売されたTesla Motorsの「Model S」(関連記事)は、リーフの約3.5倍という85kWhもの電池容量を搭載しており、走行距離は425kmに達する。しかし、7万7400米ドル(約615万円)という価格は安いとは言えない。
これらのEVの課題を解決する上で検討されているのが、パンタグラフと架線を使って電力を供給する電車のように、道路からEVに電力を供給するシステムである。道路から電力が供給されれば大容量の電池がなくてもEVを走行させられる。つまり、停車中に大容量の電池に充電するのではなく、走行中に給電し続けるという構想である。
豊橋技術科学大学の波動工学研究室は2012年6月27日、道路の路面下に設置した電極から、タイヤを介して車両内に電力を供給する技術の基本原理を実証したと発表した。今後は、シニアカートを改造した1人乗りのEVを用いた実験を行う予定で、5年以内に本格的なEVを用いた実証実験を始めたい考え。
波動工学研究室教授の大平孝氏は、道路から供給される電力で走行するEVを「電化道路電気自動車(EVER:Electric Vehicle on Electrified Roadway)」と呼んでいる。EVERでは、以下の点に注目して開発された。
- 自動車は常に路面に接地している
- 一般的なタイヤは、トレッド表面近くに導体となるスチールベルトが組み込まれている
- 周波数が数MHzの高周波電流を用いれば、通常は絶縁体であるコンクリートやタイヤのトレッドは誘電体として働き、道路下の電極とスチールベルトを誘導結合させて少ない損失で電流を流せる
つまり、道路下の電極とスチールベルトの間で、道路表面のコンクリートとタイヤのトレッドを媒質とするコンデンサが形成されていると考えると分かりやすい。電流の流れとしては、高周波電源回路、道路下の電極、道路表面のコンクリート、タイヤのトレッド、スチールベルト、ラジアル、アルミホイール、車軸、車両内部という順番になる。戻りは、入力と逆側の車軸から高周波電源回路に向かって電流が流れる。
ただし、通常の高周波電源を使って電流を流しても、道路下の電極からスチールベルトに電流は流れない。これは、高周波電流に対するタイヤの電気的媒質定数が通常の電気回路と大きく異なるため、流した電流の大部分が反射してしまうからだ。そこで大平氏は、電源とタイヤの間に小さなコイルとコンデンサからなる回路(LC回路)を挿入した。このLC回路は、反射された高周波電流の位相を180度ずらして再度反射する機能がある。これにより、タイヤ表面で反射された高周波電流を、位相を180度ずらして再反射した高周波電流によって打ち消すことで、道路下の電極からスチールベルトに高い効率で電力を供給できるようになる。これは、無線通信用の電力増幅器に用いられている高周波回路技術を応用したものだ。
今回発表した基本原理を確認するための実験では、高周波電源を接続したアルミ電極から、アクリル製の絶縁板を介して、市販の乗用車用13インチラジアルタイヤのスチールベルトに電力を供給し、車軸と接続した60Wの白熱電球を点灯させることに成功した。「理論的には80%以上の効率で電力を供給できる。今回の実験では効率を正確に測定しているわけではないが、白熱電球の明るさから見ても80%以上の効率は確保できているはずだ」(波動工学研究室の研究員)という。なお、車軸と白熱電球の間でも、先述した反射が起こるため、高周波電源と同様のLC回路が組み込まれている。
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