“未来感”の伝わる次世代コンセプトカーで将来技術の価値を知らしめる:ダイムラー 次世代コンセプトカー開発担当副社長 インタビュー(1/2 ページ)
ダイムラーの「メルセデス・ベンツ」ブランドは、同社の革新性を示す次世代コンセプトカー「Fシリーズ」を1991年から開発し続けている。Fシリーズの開発を担当するバーラット・バラスブラマニアン氏に、Fシリーズの最新モデル「F125!」の革新性や、同社が目指す自動車の未来像について聞いた。
自動車を「発明」したという自負を持つだけあって、Daimler(ダイムラー)の「Mercedes Benz(メルセデス・ベンツ)」ブランドは、常に革新的であろうとし、自動車業界をリードする立場にあることにこだわりを持つ。その姿勢が色濃く反映されているのが、同ブランドが発表する次世代コンセプトカー「Fシリーズ」だ。頭文字の「F」は、ドイツ語の「Forschung(研究)」、英語の「Future(未来)」の両方に由来する。
1991年に登場した「F100」に始まり、2010年に発表された「F800」まで続いてきた。そして、自動車の発明から125周年にあたる2011年に登場した最新のFシリーズが「F125!」である。次世代燃料電池、水素吸蔵合金、リチウム硫黄電池といった次世代パワートレイン技術を満載するだけでなく、直接触れずにジェスチャーだけでガルウィングドアを開閉したり、エンターテインメントや運転に関する情報を操作したりするためのHMI(Human Machine Interface)もユニークだ。
このFシリーズの開発を取りまとめるのが、同社のリサーチ、アドバンストエンジニアリング、電気・電子技術、ITプロセス担当副社長を務めるBharat Balasubramanian(バーラット・バラスブラマニアン)氏だ。インド工科大学を主席で卒業した後、ドイツで学位を取得。現在はダイムラーで、ITから電動パワートレインまで幅広い分野の先行開発を担当している。本国ドイツの他、インド、中国、米国カリフォルニア州のパロアルトといったエリアに設置した先行開発の拠点を巡り、革新性を追い求めるバラスブラマニアン氏に、同社が目指す自動車の未来像について聞いた。
「F125!で提案したのは、15年後を見据えた自動車の将来像です。高効率の燃料電池によるゼロエミッション走行が可能であり、リチウム硫黄電池からの電力で50km走り、水素吸蔵合金から水素を取り出して燃料電池で発電しながらトータル1000kmまで走行距離を伸ばすことができます」(バラスブラマニアン氏)。
もちろん、現段階ではリチウム硫黄電池やこれほど高効率の水素吸蔵合金は実用化されていない。しかし、「現状の技術開発の状況から15年先の未来を予測すれば、これらの技術を積んだ車両が街を走ることも夢ではない」(同氏)という。
F125!でもう一つ注目すべきなのは、次世代のHMIである。手をかざすと自動で開閉するガルウイングドアもユニークだが、スマートフォンを使って車内に置かれたものを認識できたり、ドアロックや、音楽をはじめとするエンターテインメントシステムを遠隔操作できたりなど、運転から気をそらすことなく多くの情報にアクセスするための工夫がある。
「運転しながら、運転以外の操作をすることには各国で法律が異なるので、開発にあたっても慎重な対応が必要です。ドライバーの視点をあまり動かさずに、感覚的に操作できるHMIの開発を目指しました。ドイツで発売中の『Bクラス』の新モデルでは、FacebookやGoogleにつなげることもできますから、自動車に乗っているときに友人の居場所をSNSで確認して、突然会うといったことも可能です。独自のサーバを用意して、豊富なアプリに対応する予定です。2012年から無料で運用をスタートし、その後も低価格でサービスを提供します。次期『Aクラス』ではこの発想をさらに進化させて、HMIを介してスマートフォンから操作ができるようにしたいと考えています」(バラスブラマニアン氏)。
次世代HMIの開発に当たって同氏が考えたのは、「自然な操作性」だ。例えば、音声認識を使うとき、音声からキーワードを拾って、あらかじめ用意された動作のデータベースの中からドライバーが求める動作を推察して、タッチパネル画面に表示して提案する。ステアリング上にある「BlackBerry」風のボタンでも情報にアクセスできる。17インチサイズのタッチパネルでの操作の他に、3D表示も可能だ。このように、ダイムラーが走行性能や安全性といった自動車の基礎技術以外に食指を伸ばすのには理由がある。
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