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CFRPの知財マップ/炭素繊維で世界シェア7割を占める日本企業の知財勢力図は?知財コンサルタントが教える業界事情(13)(1/3 ページ)

炭素繊維強化樹脂(CFRP)の原料として注目を集める炭素繊維(CF)。その世界市場の7割を日本のメーカーが握っている。CFRPとCFの知財動向をチェックする。

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 軽量・高剛性・高強度という特性を持つ炭素繊維強化樹脂(CFRP)は、製品の剛性や強度を保ちながら軽量化が可能になることから、環境負荷を低減できる構造材料として注目されています。航空機分野では、既に一次構造材への採用が進展しており、自動車分野でも注目されています。しかも、原料となる炭素繊維(CF)の市場を見ると、日本企業3社(東レ、三菱レイヨン、帝人系企業:帝人/東邦レーヨン/東邦テナックス)の世界シェアの合計は約70%に達するそうです。

 そこで、今回は航空機分野から、自動車分野に目を転じ始めた、日本企業3社の企業活動と日本公開系特許出願の関係に注目してみたいと思います。

 今回は出願年に注目したいので商用データベースを試用しています。

ひとくくりに炭素繊維(CF)といっても実は……

 プラスチックは軽量ですが、低弾性率のため、構造材料には不向きです。そこで、弾性率の高い材料(ガラス繊維やCF)と複合材料(コンポジット)化され、軽量かつ高強度な構造材として用いられています。その中でも、CFでコンポジット化されたものはCFRPといわれています。

 CFそのものは炭素を含む原料を熱分解して製造されています。そして、原料の種類により、PAN系CF(Polyacrylonitrile:PANから製造)、ピッチ系CF(コールタール/石油ピッチから製造)、VGF系CF(VGCF/VGCF/Vapor-Grown CF:炭化水素ガスの熱分解で製造)の3つがあります。

 それでは、日本企業大手3社の取り組むCFに注目してみましょう。

日本企業大手3社の取り組む炭素繊維(CF)は何か?

 大手3社(東レ、三菱レイヨン、帝人系企業[帝人/東邦レーヨン/東邦テナックス])はPAN系CFに取り組んでおり、軽量・高強度が特徴です。

 それに対し、三菱レイヨンと同じ、三菱ケミカルホールディング傘下の三菱樹脂が取り組むCFはピッチ系CFであり、軽量・高剛性であると同時に、高熱伝導性と極低熱膨張性を持ち、黒鉛繊維ともいえる構造を持っています*。


*汎用炭素繊維 ピッチ系炭素繊維には力学的強度にこだわらない汎用炭素繊維(GPCF)もあり、CF技術を俯瞰(ふかん)する際には注意が必要となります。例えば、中国のAnshan Sinocarb Carbon Fibersなどの製品などは汎用炭素繊維です。


激しさを増す炭素繊維強化樹脂(CFRP)の開発競争

 これまでは「熱硬化性樹脂と組み合わせたCFRP」が使われていましたが、現在では加工性の優れた「熱可塑性樹脂と組み合わせたCFRP」が開発されています。

 例えば、2011年3月9日には帝人が「熱可塑性CFRP(CFRTP)」の自動車用車体骨格を実現*したと、そして、翌2012年1月24日には、東レが従来よりも優れた特性の得られる「射出成形用の炭素繊維強化熱可塑性プラスチック」をナノ構造制御技術で実現**したと、それぞれ発表しています。


 では、

  • なぜCFRPが自動車分野で注目されているのでしょうか?
  • なぜ自動車分野では、特に「熱可塑性樹脂を用いたCFRP(CFRTP)」が注目されているのでしょうか?

 こんなことを念頭に、CFRPを眺めてみることにしましょう。

自動車向け炭素繊維強化樹脂(CFRP)の開発

 CFの航空機一次講構造材料への利用はよく知られています*。自動車分野では、レーシングカーやスポーツカーといった車種での採用が試みられていましたが、いよいよCFRPの量産車へ応用が試み始められています**。

* 本稿コラム「炭素繊維の登場と炭素繊維事業開発の歴史」を参照。
** 東レの自動車材料事業戦略(PDF)


 普及台数の多い自動車では、CO2排出量削減のみならず、車体の安全性確保が求められ、さらには乗員の安全性確保のため、エアバック・システムなどが搭載されるようになりました。より一層の安全性と快適性のために、さまざまな電子機器が自動車に搭載され、それらの配線部材だけでもかなりの重量となり、車両重量増加の傾向に拍車が掛けられることになりました。

 1985年以降、自動車の車両重量の増加傾向が顕著になっています*。アウディの調査では、平均車両重量が中型車では年に10kgずつ、大型車では年に20kgずつ増加しているそうです**。

* H. Wallentowiz and H. Adam, "international journal of crashworthiness" Vol.1, No.2, pp. 163‐180 (1996)
**鶴原吉郎「これからの高級車はアルミボディ?」 『D&M』 No.580 45-48 (2003)


 車両重量増加は燃費を悪化させますが、重量増加に見合う車両運動性能確保のためには、より高出力のエンジンが必要となります。ですから、このままでは、さらなるCO2排出量の増加になります。そこで、CO2排出量削減と安全性確保を同時に満たすため、車体軽量化を目指した、新しい車両設計技術が求められるようになりました。

 日本では、このような状況を踏まえ、NEDO主宰の「自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発(2003〜2007年度)」(参加者:東レ、日産自動車、東京工業大学、京都工芸繊維大学、東京大学、2005年度から兵庫県立大学参加)*が進められました。

 この取り組み成果も踏まえ、2008年度からは乗用車の30%軽量化実現をめざすプロジェクト、「炭素繊維複合材料で目指す低エネルギー消費・循環型社会(2008年度〜2012年度)」**が進行中です。

 このプロジェクトでは、従来型CFRP(CFとエポキシ樹脂の組み合わせ)並みの、界面接着強度と線膨張係数の小ささを保持しながら、従来型CFRPの欠点であった高速成形性、易二次加工性およびリペア・リサイクル性の改善されたCFRTPを開発するとともに、自動車部材開発に必要な材料特性を明確にすることを目指しています。


 それでは、自動車用CFRPの製造に注目してみましょう。なお、本稿ではこれ以降、炭素繊維(Cabon Fiber)をCF、炭素繊維強化樹脂(Carbon Fiber Reinforced Plastic)をCFRP、炭素繊維強化熱可塑性樹脂(Carbon Fiber Reinforced Thermoplastic)をCFRTPと略記します。

自動車用CFRPの製造

 自動車用CFRPでは、車体の各部に求められる強度と剛性に応じて、成形法と基材の観点から次の3つタイプのCFRPがあります。

  • プリプレグ(「CFに樹脂を含侵させたシート状のもの」を成形、CFとエポキシ樹脂との組み合わせ)
  • RTM(「Resin Transfer Molding」、CFとエポキシ樹脂との組み合わせ)
  • SMC(「Sheet Moulding Compound」 、CFとビニルエステルとの組み合わせ)

 プリプレグ(CFに樹脂を含浸させたシート状のもの)では連続繊維のCFが用いられ、モールドに合わせた加圧成形が行われるので、強度と剛性に優れており、自動車の一次骨格に採用されています。生産性は他の2つに比べて劣ります。現在では、CF繊維束のストレート化で高強度化が、脱気性と樹脂粘性の調整で高密度化が、同時に実現されています。

 RTMでも連続繊維のCFを用います。モールド上にCF基材を置いて、エポキシ樹脂と共に加熱・プレスして一体化します。二次骨格に採用されることが多いようです。RTMはプリプレグに次ぐ性能をもちながら、プリプレグよりも優れた生産性を持っています*。

* RTMの生産性向上 東レは、既に「プリフォーム(樹脂を含侵させる前の予備形成体)に樹脂を含侵させて硬化させるまでに要する時間」だけでなく、「脱型と裁断に要する時間」までを短縮させて、RTMの生産性向上を実現しています(参考資料、PDF)。


 SMCには繊維長の短いCFからなるシートが用いられ、樹脂と共にモールド上で加熱・プレスされ、樹脂と一体成形で硬化されています。生産性に優れ、複雑な形状のパネルも成形可能になります。

 これら3つのタイプのCFPRに用いられている樹脂は、いずれも熱硬化性樹脂です。熱硬化性樹脂を使って繊維強化樹脂を成形する際の生産性は、熱可塑性樹脂を使う場合よりも低いといわれています。そこで、自動車分野にCFRPを普及させるために、熱可塑性樹脂を使ったCFRPであるCFRTPによって生産性の向上が目指され、帝人*と東レ**がそれぞれ達成方法を完成させたわけです。


 それでは、東レの炭素繊維が航空機一次構造材に採用され始めた、1980年代後半からの大手3社(東レ、三菱レイヨン、帝人系企業[帝人/東邦レーヨン/東邦テナックス])の日本公開系特許出願件数推移*に注目してみましょう**。

*日本公開系特許 日本特許庁の発行する公開系特許には、次の3つがあります。
・日本特許庁に直接出願され、公開された「公開特許(略称:「特開」)」
・外国語のPCT出願(国際出願)について、出願人が提出した日本語の翻訳文が掲載されている「公表特許(略称:「特表」
・日本語のPCT出願について、国内出願に移行した際に発行される「再公表特許(略称:「WO」)
 なお、日本語のWO特許公報が一度公開(国際公開)され、国内出願に移行した際には、もう一度公報が発行されるため、「“再”公表公報」と呼ばれています。
** 特許の出願から公開までの期間 特許の出願から公開までの期間は、通常1.5年です。ですから、今回の連載では、出願年の2011年は0件に近いものになり、2010年は2カ月分くらいの出願件数が含まれていないことになっていることにご注意ください。



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