「何これ、超速い!」――キミは知っているか、小さくて賢いロボット「マイクロマウス」を:マイクロマウスで始める組み込み開発入門(1)(1/3 ページ)
1980年から30年以上継続されているロボットコンテスト「全日本マイクロマウス大会」をご存じだろうか? 小さくて賢いロボット「マイクロマウス」を題材に、組み込み開発の基本を楽しく身に付けよう!
はじめに
皆さん、「マイクロマウス」をご存じでしょうか? マイクロマウスとは、手のひらサイズの自立型ロボットで、1980年から続いているロボットコンテスト「全日本マイクロマウス大会」の走行体(競技ロボット)として長年親しまれています。実はこのマイクロマウス、組み込み開発の流れを学ぶ上で非常に興味深い題材でもあります。
本連載では、以下の2人と一緒にマイクロマウスを用いて、組み込み開発の基礎を学んでいきます(本連載のゴールについては本稿の最後でご紹介します)。
「自立」と「自律」について
小型自立ロボット「マイクロマウス」とは?
――昼休み、北上くんがPCで何かの動画を見ているようです。
おー、これはすごい! 興奮するなぁ〜。
北上センパイ、何を熱心に見ているんですか? まさか会社で変なものを見ているわけじゃないですよね〜(ジーッ)。
あ、あぁ、これかい。マイクロマウス大会の動画だよ。
何ですかそれは(どれどれ)? ヤバッ、速っ!! 何これ!? 超速いんですけど〜。
新入社員のえみちゃんは、初めて見るマイクロマウスの動きに驚き、思わず学生口調が出てしまいました。さて、読者の皆さんは、マイクロマウスというロボットをご存じでしょうか?
まずは、以下に示した2011年度の優勝マイクロマウスの動画を見て、えみちゃんの“驚き”を共有してみましょう。最初に、マウス自身が未知の迷路を探索しながら走り、その後、割り出した最短ルートをものすごいスピードで疾走しながらゴールを目指します。
もうお分かりだと思いますが、上の動画で動いているロボットが、マイクロマウスです。
さて、このマイクロマウス大会の歴史は古く、1977年にIEEE(米国電気電子学会)が提唱し、スタートしました。日本では、1980年にニューテクノロジー振興財団の主催で「第1回 全日本マイクロマウス大会」が開催され、今年(2012年)で33回目を迎えます。この歴史からも分かる通り、マイクロマウスは、日本の、いや世界の(といっても過言ではないでしょう)ロボットコンテストの草分け的存在なのです。
ちなみに、先の動画で紹介したのは、マイクロマウスクラシック競技の「エキスパートクラス」の優勝ロボットです。このクラシック競技には、他にも初級者向けの「フレッシュマンクラス」があります。
2009年には、クラシック競技の2分の1サイズの迷路を走る「マイクロマウス(ハーフサイズ)」がスタートしました。これは近年、小型の電子部品やセンサー類の個人入手が可能になったことを受けて、コンテストのレベルアップを目指し、従来のロボット規格と迷路を半分にスケールダウンした競技です。
このハーフサイズの登場以降、“マイクロマウス”はハーフサイズマウスに向けられる用語となり、従来のサイズは「マイクロマウスクラシック」と改称されました。本連載においては、自律で迷路を走行するロボットを総称して、“マイクロマウス”と表記することにします。
規定では、マイクロマウスクラシック競技におけるロボットのサイズは、縦・横250mm内と定められています。しかし、これは第1回大会当時の規格であり、現在のマイクロマウスは小型化が進み、“手のひらに乗るサイズ”が主流となっています。
クラシック競技の迷路は、1区画180mmの16×16区画で構成されています。もちろん、事前に迷路の情報は提供されません。まず、マイクロマウスは迷路の左隅にあるスタート地点を出発し、センサーで壁を検知しながら迷路内を走り回り、中央にあるゴールを目指します。そして、ゴールに到達した後も未走破区画を走り、最短経路を探します。
この「探索走行」が終了すると、今度は、スタートからゴールまで最短ルートを駆け抜けます(最短走行)。エキスパートクラスの場合は、持ち時間5分で、探索走行を含めて5回の走行にチャレンジでき、その中で最も短いタイムが成績となります。
ちなみに、ゴールが中央に設置されているため、古典的な迷路攻略法である「左手法(左手を壁に当てて歩いて行けば、いつかは出口にたどり着く)」は、使えません。その上、ゴールへ至る経路は複数あります。
画像2 「第32回 マイクロマウス大会 2011」。エキスパートクラス決勝で用いられた迷路。あなたは、この中からゴールへ至る経路を幾つ見つけられるだろうか? なお、ゴールへの経路は複数あり、最短経路はマイクロマウスの性能によって変わる(クリックすると経路を表示)
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