設計審査の超定番「安全率」をごまかすな!:甚さんの「技術者は材料選択から勝負に出ろ!」(11)(1/3 ページ)
あなたの会社の設計審査で、「安全率」の議論はどんな感じ? その「分母と分子」について、誰も質問しなかったら要注意。
当連載の登場人物
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生のイマドキな若者。機構設計者。通称、良君
あなたの会社は「5N」ですか?
良君! 確か……オメェの会社はISO9001を取得しているよなぁ?
もちろんですとも! でも、いまだに「5N会社」ですけど……。
「5N」と言えば、「灯油ポンプの設計書を書こうじゃねぇかい!」を公開して以来、企業規模を問わず、いろいろな企業から当事務所に問い合わせをいただきました。多少の批判はありましたが、ほぼ賛同という意見でした。その内容とは……。
以下の設計「5N(5“ない”)」は、企業規模の大小とは関係なく発生しています。
- 競合機分析やらない
- 強度、安全率、累積公差計算しない
- 特許出さない
- コスト見積もりしない
- 設計審査やらない
長年この状況を許してきたために、現在は、「やらない」が「できない」にまでなってしまいました。これは昔からあった現象ですが、3次元CADが急激に導入された「3次元CAD元年」と呼ばれる2001年ごろから急加速したのです。このころ設計された家電や自動車に“設計品質が原因のトラブル”が集中しています。
多くの日本企業が改善を目指しているということは、筆者も大変うれしく思います。問題は、何も気付きのない企業と技術者、つまり「5N企業」と「3次元モデラー」たちです。
このままでは、隣国の企業にどんどん追い抜かれ、気がついたときはもう手遅れです。
オメェの会社はいまだに5Nなのかっ? あん? 良君! 悪いことは言わねぇ、その会社、辞めろ!
また甚さんの“悪い口グセ”が出ました。
もー! 甚さん! そういう短絡的な発言は本当によくないですよ! 「図面読めねぇ、描けねぇ院卒」「役立たずの院卒」「3次元モデラー」「CAEキー坊」「豚に真珠」「猫に小判」、そして、最近は「すぐ辞めろ!」です。
スマン。春だから許しチくれ。
春とは関係ないでしょ……。僕は慣れましたけど、僕の仲間は、甚さんのそういう言葉にひどく傷ついているんです。
おい、「慣れた」っていうのは、どうなんだい。それに「ひどく傷ついている」って、そりゃオメェ、自覚しているからじゃねぇかい? あん?
もう少しだけ事情を聞いてください。だって、まずウチの課長からして、検図はできないし、設計審査もできないんですよ。できるのは英語だけですよ。じゃあ、その部下はどうなるかって……、分かるでしょ?
あん? だから、どうしたっ。人のせいにするのか? 役立たずの院卒!
別に、してません! しかし、その課長の世代を育ててきたのは、甚さんたちの世代ではないですか。
フンッ! そうだ。あの頃は、不良品でもガーンガン売れたからな。分かった! 今回でこの連載は最後だ。オイラの短絡的な発言をぜ〜〜〜んぶ! いま! ここで! 謝罪してやらぁ。あーもうっ、大っ変申し訳ございません! どうだ!! それでいいだろ! あーん!?
はいはい……、分かりました。もうどうぞお好きなように……。
さて、今回のテーマは、連載の最後にふさわしい「安全率」です。
入社して10年、20年、社内で1度も「安全率」という言葉が出ない、自分自身も聞いたことがないとしたら。甚さんの言葉を借りるなら……。
「辞めた方がいいかも……」
しかし、入社10年、20年といえば、既に30〜40歳。安易に退職はできない年齢です。従って、「辞める」のでなく、自社内で積極的に設計業務の改革をしましょう。そのリーダーとなるにふさわしい年齢です。
安全率の解説に入る、その前に
「安全率」は、企業の大小規模にかかわらず、全ての企業といっても過言ではないほど、設計審査における定番の質問事項です。
ここで、いつものように設計を料理に、設計者を料理人にたとえてみます。「ご飯」「目玉焼き」「味噌汁」――身近でシンプルな料理ほど難しく、奥が深いといわれています。実は、安全率も全く同じです。
「安全率が難しい」といわれる理由は、「率」故に「分母」と「分子」が存在するということです。
良君! どこの企業でも設計審査で質問される「安全率」だがよぅ。「安全率」のこと“だけ”を質問する審査員(管理職)はド素人だ。よく覚えていやがれっ!
甚さん、「安全率」のこと“だけ”とは?
おぉ! 役立たずの院卒のオメェにしちゃぁ、鋭い質問じゃねぇかい? あん?
「安全率とは何か?」――その解説に入る前に、最終回にふさわしい練習問題を解いてみましょう。ただし、実務としての設問です。学校の試験問題ではありません。
設問 1
繰返し荷重を受けている引張り強さ「450N/mm2」の軟鋼丸棒(SS400)がある。安全率を「5」とすれば許容応力はいくらになるか。
回答 1
まず、荷重によって定められる材料の基準的強さ(基準応力:σs)を求める。
- 荷重条件:繰り返し荷重(詳細後述)
- 基準応力:σs=σB×2/3=450×2/3=300 N/mm2
安全率f=5
許容応力σa=σs/f=300/5 =60 N/mm2
どうだ院卒! できたかぁ? あん?
モチのロンです! でも、「×2/3」って何でしょうか?
おぉ! 毎度のことだけどよぉ、オメェは、こういう問題はめっぽう強いよなぁ。関心したぜぃ! そして、「×2/3」に関してもいい質問だぁ。
あざ〜〜ス!
「この問題が解けない」ということはだよ、利尻昆布やアグー豚を仕入れて、「その先どうするの?」って言っている料理人、またはカンナとノコギリ持って、「これ何?」と言っている大工と同じだぜぃ! まさか、いねぇーよぁ?
僕は、「3次元モデラー」は、とっくに卒業しましたし……。「頑張れ! 日本」じゃなくて、「頑張るのはオメェだ!」と甚さんに言われましたし。
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