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脱下請けに成功した二代目社長の「超マーケットイン戦略」井上久男の「ある視点」(12)(1/3 ページ)

過去の健全な否定、世代交代、技術経営。新規事業開拓に成功し、自社を変身させた二代目社長に聞く「変身する組織」の作り方とは。

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 『キャズム』――。20年ほど前、米国のコンサルタントであるジェフリー・ムーア氏が書いた著書であり、日本でも読んだ方は多いだろう。本のタイトルとなった「キャズム(chasm)」とは本来、裂け目や溝という意味である。ムーア氏は、顧客セグメントごとに深い「キャズム」があり、それを乗り越えていかなければ大きな市場を獲得できないと指摘している。

 もう1つ、これも読んだ人は多いだろうが、『イノベーションのジレンマ』。ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が書いた著著である。優秀な技術を持ちこれまで市場を押さえてきた優良企業が、今の技術の改良と既存の顧客対応にばかり目を奪われることで、技術は優れていなくても新しい特徴を持つ新興勢力に競争で負けてしまうことが指摘されている。

 この2つの名著から私が得た教訓は、

  1. 企業は過去を健全に否定しなければならない
  2. 新しいビジネスを成功に導くには既得権に縛られない「プロデューサー」が必要である

ということである。

既得権者の利益は価値創造に結び付かない

 現在、パナソニックやソニーなど日本の大手電機メーカーは大赤字に陥り、存亡の危機にあるといっても過言ではない。日本経済をけん引してきたもう1つの主力産業である自動車も、世界最大のマーケットとなった中国では韓国勢に負けている。「メイド・バイ・ジャパン」の苦境はやはり、成功体験に縛られ、新しいビジネスにリスクを取って挑戦する気概・人材の喪失に起因するのではないか。

 多くの大企業では、相変わらず労組出身者や秘書経験者が出世してリーダー面(づら)をしている。一言でいえば、こうした人々は「既得権者」である。既得権間の利害を調整する能力には長けるが、新しい価値を創造する力には乏しい傾向にある。

 先に述べたビジネスを成功に導く「プロデューサー」とは、まさしく言葉通り、映画のプロデューサーのように、ヒト・モノ・カネを束ねて面白い「作品」を作ろうと励む人である。私のイメージでは、優秀なプロデューサーはイエスマンではない。自分の価値観にこだわり考え抜くため、組織の既得権者と摩擦を起こし、スポンサーや「老害勢力」にも屈しないが、決して独りよがりでもなく、社会を冷静に見つめ、「作品」によって自分たちの訴えたいことを問題提起していく。だから見る人の心を捉えることができる。メーカーでヒット商品が生まれるのも、プロデューサー的人材を抱えているからではないか。しかし、多くの日本企業では、こうした人材は一言で「扱いにくい」と評され、企業の中枢を歩めなくなっている。

 業種、企業規模の大小を問わず、過去を健全に否定すると同時に、プロデューサー的人材を育てていかなければ、激しい競争に勝つことはできないだろう。私は取材を通じて、中小企業ながら、この2つを実行し、成果を出している会社を見つけた。

 その会社とは従業員21人、売上高約4億円の日本テクノロジーソリューション(本社・兵庫県高砂市)である。全国的には全く無名の会社だが、生き残りを賭けた戦略の構築、その実践は示唆に富む。

安定した下請け企業が直面した「異変」

 日本テクノロジーソリューションの歴史、この10年近くの変遷(へんせん)を見ていけば、示唆するものが何か見えてくる。

 その前身は、現社長の岡田耕治氏(43)の父親が脱サラで1976年に起業した岡田電気工業。東芝向けのブラウン管検査装置製造が主な仕事だった。父の急死に伴い、サラリーマンとしての生活を捨て、家業を継いだ岡田氏は1999年に社長に就いた。

 一定の技術力とコスト競争力を有して安定的に仕事をもらえる典型的な下請け企業であったが、岡田氏が家業を受け継いだころに大きな転機が訪れた。取引先の電機メーカーの中ではブラウン管から薄型テレビに切り替えていく動きが加速していた。岡田電気工業はその流れに対応しなければならなかった。

 その第一弾として2000年に約2000万円でプラズマの検査装置(電装部分)を初受注し、事業転換への弾みをつけた。ところが半年後、2号機の顧客からの価格提示は約700万円。わずか半年で3分の1にまで値崩れした。「韓国や台湾の装置メーカーがそのぐらいの価格でやるのでというのが理由でした」と岡田氏は振り返る。

 ここで岡田氏は電機業界の「異変」に気付く。それは経営者としての直感のようなものであった。家業を受け継ぐ前の岡田氏はコンサルティング会社に勤務しており、企業や業界を「診断」するノウハウは持っていたが、早速それを自社の経営で活用する事態に直面した。自身の足で稼ぎながら調査した結果、岡田氏は「ブラウン管は、韓国と台湾が競争力を付けてくるのに約30年を要したので日本の優位性が保てたが、液晶やプラズマは世界同時競争になっており、巨大な設備投資で競争力を維持するモデルに差別化の要素は少なく、半導体と同じ展開になるだろう」と確信した。

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