マグネシウムが変えるか、日本のエネルギー問題:インタビュー スマートグリッド(2/3 ページ)
「電気は貯められない」。現在のエネルギー政策は、この主張が大前提になっている。だが、東北大学未来科学技術共同センター教授の小濱泰昭氏は、この主張に真っ向から異議を唱える。太陽光でMg(マグネシウム)を精錬し、Mgを組み込んだ燃料電池に加工する……、こうして、電力を物質の形で蓄え、輸送し、新しいエネルギー循環を作り上げられるという。同氏は実際に機能するMg燃料電池も開発した。
羽の生えた鉄道の研究から始まった
Mg燃料電池が生まれたきっかけは何だったのか、何がブレークスルーなのか、小濱氏に電話でインタビューする機会を得た(図2)。
@IT MONOist(MONOist) Mg燃料電池が生まれた背景を教えてほしい。
小濱氏 私の専門はそもそも電池とは無関係の流体力学だ。長年、乗り物の効率向上に取り組んでおり、高速輸送が可能な乗り物「エアロトレイン」(図3)を提案してきた。約20年前に最初のモデルを発表している。ただし、研究の当初から、輸送機関のエネルギー問題が気になっていた。リニアモーターカーのような高速輸送機関はエネルギーを大量に消費する。いわば原子力発電所を前提とした輸送機関であり、エネルギー問題の今後を考えるとこれではだめだ。そこで自然エネルギーだけで時速500kmで走行できる輸送機関の研究を続けた。
MONOist エアロトレインにMgが必要だったのか。
小濱氏 そうだ。軽量化が必要だった。Mgを取り入れたエアロトレインのモデルを2010年に開発できた。産業技術総合研究所基礎素材研究部門(九州センター)の協力を得て、難燃性Mg合金を見つけ出すことができたからだ*5)
*5) Mg(比重1.74)はAl(アルミニウム、比重2.7)の3分の2と軽い。しかしMgは、発火、燃焼しやすく、成形加工が難しいなどの理由から、これまで構造材としての利用が広がっていなかった。関連資料:「産総研のハイテクものづくり(第10回)」(PDF)。
MONOist しかし、このMg合金は電池とは無関係なのではないか。
小濱氏 エネルギー問題について常に考えていたため、新しいMg合金の電気的特性を調べることにした。2010年の暮れに基礎実験を始めたところ、非常に良い特性を持っていることが分かった。例えば、純粋な金属Mgを使って燃料電池を構成すると、1日で電池としての性質が失われてしまう。Mgを電解液に入れると水素を出して溶けてしまうからだ。電流を取り出すことがほとんどできない。溶け出さないようにすると、表面に酸化被膜などができてしまい電池として役に立たない。ところが、新しいMg合金では電池として3週間機能した。
MONOist 成功の秘密は何なのか。
小濱氏 Ca(カルシウム)だ。もともとはMgの発火、燃焼を抑制するためにCaを添加したものであり、なぜ電気化学特性が良くなるのかは不明だ。しかし、水素の発生などの不具合が起きなくなった。Mg電池の実装については、これまでMg燃料電池に取り組んだ経験がある古河電池に協力を仰いだ。だが、古河電池は従来のMg燃料電池がものにならないことを理解しており、当初は「ダメだろう」という対応だった。しかし、新Mg合金を試した結果、「これは違う」ということになった。
今後は正極、負極ともにさらに内部抵抗の低減が必要であり、電池としての耐久性も高める必要がある。古河電池と協力して取り組む予定だ。
MONOist Mg燃料電池はエネルギー問題に対してどのような意味を持つのか。
小濱氏 これまでは経済発展のために原子力発電は仕方がないことだ、というのが国全体の方針だった。このような方針の前提は、電気は貯められないものだという主張である。だが、私のMg燃料電池は、太陽エネルギーをMgの形に貯めることができる。Mgはモノだから、輸送も可能だ。送電線で長距離送電する場合と異なり、効率低下もない。
MONOist 今後の研究方針について教えてほしい。
小濱氏 これからは「燃料を作る時代」に入ったということを主張したい。化石燃料や原子力はもう50年もたない。その後は燃料物質を作るしかない。ちょうど食料を調達するために、当初は直接採取だったものが生産(農業)に変わっていったようなものだ。
燃料を作る際、太陽エネルギーを利用すれば、Mgを作り出して消費しても、元のMgに復元できる。このようなサイクルを成り立たせる研究を続ける。
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