JR東日本、軽量な太陽電池を駅に導入へ:スマートグリッド(2/2 ページ)
太陽電池の大量普及を狙うには、住宅の屋根やメガソーラー以外の設置場所を探る必要がある。JR東日本が求めていたのは、軽く、自由な形状を狙える太陽電池だった。
電力のシフトから太陽電池を役立てる
フィールド試験では将来の駅での使用を想定したシステム構成を取り入れた(図3)。太陽電池の使い方は、エネルギーの時間シフトだ。昼間に発電・蓄電し、夜間に通路屋根に設置したLED照明を点灯させる。「実験ではLED照明を4灯、合計18W導入した。人感センサーと連動して光るため、日中発電した電力で夜間照明をほぼ全て賄える」(JR東日本)。
今回のシステムではIT技術を利用していない。蓄電の制御技術には取り組まず、条件の悪い設置場所で太陽電池の性能を検証することや、今後の効率改善への提案項目を抽出することが目的である。
有機薄膜太陽電池とは
JR東日本がフィールド試験に採用した有機薄膜太陽電池の特長は何だろうか。
同電池は「発電するプラスチック」とも呼ばれる。Si太陽電池と同様にp型半導体とn型半導体を使うが、有機薄膜太陽電池ではいずれも有機材料で実現している*2)。p型はポリマー、n型にはフラーレンの誘導体を使うことが多い。フィールド試験に用いた太陽電池もこのような基本構造は同じである。
*2) ただし、アルミニウム電極やITO電極など、電極部分は有機物ではない。加えて、ガラス基板を使うことが多い。
プラスチックで作れるということは、製造時にSi太陽電池のような高温環境、真空環境が必要ないということを意味する。つまり製造時に必要なエネルギーや時間が少なくて済む。さらに有機薄膜太陽電池は全ての太陽電池の中でも最も薄い太陽電池だ。2種類の有機半導体が混ざった発電層の厚みはわずか0.1μm程度だ。
これらの性質はそのままコストに直結する。つまり最も安い電池となる可能性がある*3)。
*3) 太陽電池のコストは量産規模に強く依存する。有機薄膜太陽電池の生産規模はSi太陽電池と比較するとゼロに等しいため、将来の確実なコスト予想は難しい。
有機薄膜太陽電池の弱点は、研究が始まってからまだ日が浅く、変換効率が低いことだ。
JR東日本が採用した太陽電池の発電部分、すなわち有機材料を利用した塗布型の発電層を作り上げたのは、宮城県に立地する有機エレクトロニクスに特化した研究開発企業であるイデアルスターだ。
金沢大学理工研究域サステナブルエネルギー研究センター長で教授の高橋光信氏と共同で開発したものであり、耐久性*4)が高く、大面積で精度の高い膜を成膜できることが特長だという。「JR東日本に提供した太陽電池セルの変換効率は3%程度だが、10%を超えて実用化することを目指している」(イデアルスター)。
*4) 耐久性を高めた研究開発の成果:「世界最高レベルの耐久性を持つ有機薄膜太陽電池の開発」(PDF)
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有機薄膜太陽電池は、Si(シリコン)を使わず、2種類の有機材料を混ぜ合わせて塗るだけで発電できる。軽量であり、量産性に優れていると考えられている。しかし、何十年も先行するSi太陽電池に果たして対抗できるのだろうか。産業技術総合研究所は、有機薄膜太陽電池の製造コストを見積もり、どのような技術改良が必要なのか指針を示した。