未来の太陽電池をドイツ企業が開発、有機薄膜型で最高効率達成:スマートグリッド(1/2 ページ)
太陽電池にはSi(シリコン)を使わないタイプもある。変換効率が非常に高いもの、製造コストを低減できるものなどさまざまだ。有機薄膜太陽電池は、製造コストの低減がたやすく、軽く薄い太陽電池を実現できる。
ドイツHeliatekは、2011年12月5日(現地時間)、変換効率9.8%の有機薄膜太陽電池を開発したと発表した*1)(図1)。この値はドイツFraunfofer ISEが認定しており、Heliatekによれば有機薄膜太陽電池として最も高い変換効率だという。
*1) 同社は2009年に変換効率6.07%を報告後、2010年には8.3%を達成しており、この時点で有機薄膜太陽電池として最も高い値であったという。
2012年下半期には今回の技術を適用した太陽電池の量産に入る予定だ。Heliatek社内の測定によると、大面積セルでは開口部の変換効率9%を実現できる見込みだという。
試作したのは1.1cm2の有機薄膜太陽電池セル。低分子材料を用いたタンデム構造の有機薄膜太陽電池である。
同社の共同創設者でCTOでもあるマルチン・プファイファー(Martin Pfaifer)氏は、発表資料の中で以下のように述べている。「当社は低分子材料を用いた低温蒸着法に特化している唯一の太陽電池企業である。この技術は有機ELの製造に広く採用されている。当社は太陽電池に適した低分子材料も自社開発している。今回の成果は有機薄膜太陽電池が、従来のアモルファスSi(シリコン)太陽電池の変換効率に追い付いたことを意味する」。
アモルファスSiではコストアップ要因になる半透明型の太陽電池をたやすく製品化できることも特長だという(図2)。
有機薄膜太陽電池は、Siを使わない。そもそも有機薄膜太陽電池は、太陽電池技術の中でどのような位置を占めるのだろうか。どのような特長があるのだろうか。
有機薄膜太陽電池とは
現在最も広く使われている太陽電池は結晶Si(シリコン)太陽電池だ(図3に紺色で示した)。15cm角程度のセルが大規模に量産されており、現在、規模の経済が働いてコストダウンが進んでいる。ただし、Siを高温で融解する工程を含むため、製造コストの低減には限界がある。材料コストにメリットがあるのが薄膜太陽電池だ。図3では緑色で示されている。変換効率ではSi太陽電池を下回るものの、材料の使用量が同太陽電池の例えば100分の1と少なく、低コスト化に向く。
図3 太陽電池の効率改善の歴史 1975〜2011年の変換効率の推移を示した。紫は多接合太陽電池とGaAs(ガリウムヒ素)太陽電池を示す。大型化が難しく高価だが変換効率は高い。主に宇宙用途や集光型太陽光発電システムに利用する。紺色はSi(シリコン)太陽電池。単結晶(■)、多結晶(□)、パナソニックのHIT(●)などを示した。現在、住宅の屋根置き用途やメガソーラーなどで最も広く使われている太陽電池である。緑色は薄膜系であり、CIGS(●)とCdTe(○に黄色)、アモルファスSi(○)が主。オレンジ色は比較的開発の歴史が浅い太陽電池を示す。色素増感太陽電池(○)、有機薄膜太陽電池(●)、タンデム型の有機薄膜太陽電池(▲)、量子ドット太陽電池(◇)などがある。図中には米Konarka TechnologiesやHeliatekの名前が見える。数字の後に「×」が付いているものは、集光時の倍率を示す。出典:NREL(2011年第9版)
今回、Heliatekが開発した有機薄膜太陽電池は、Siや薄膜と比較すると研究の歴史が浅い。1986年、米Eastman Kodakの研究者タン(C.W.Tang)氏*2)が有機薄膜太陽電池のプロトタイプを報告したことが始まりだ。同氏が開発した構造は、有機p型半導体と有機n型半導体を接合したヘテロ接合型太陽電池だった。つまり、Si太陽電池と同様にpn接合を利用して電流を取り出している。このときの変換効率は約1%だった。
*2) なお、同氏は有機ELの生みの親でもある。
他の太陽電池が高い変換効率を実現している中、なぜ変換効率が10%に届いていない有機薄膜太陽電池に注目が集まるのだろうか。製造コストの劇的な低減が可能だからだ。
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