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先手を打ったマツダの製造業革命――真の“コンカレントエンジニアリング”がもたらす新しい価値井上久男の「ある視点」(11)(2/4 ページ)

それは、生き残りをかけた究極のイノベーションであり、産業史にも残るものであろう。マツダが次の飛躍に向けて進める大胆な開発・生産プロセス改革の深層を追った。

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モノではなくプロセスを共通化する

 そのためには目に見えるモノを共通化するというよりも、思考プロセスや設計構想、それを具現化する生産プロセスを共通にしなければならなかった。ここが単なる部品の共通化や製造現場でのモジュール化とは大きく違う点であろう。相似形の設計にしていれば、外見上は大小の違いはあっても、同じプロセスを活用できる。例えば、衝突安全のテストをする場合は、車体のフレーム構造を相似形に設計しておけば、衝撃の伝わり方も相似形になり、実験データも共有化できて問題の箇所もすぐに特定しやすくなる。

 エンジン開発でも「燃焼コンセプト」を統一化した。エンジンによって燃焼の仕方が違うと開発の度に外気の温度やアクセルの踏み込み具合など環境・運転条件を加味しながら、点火時期やバルブタイミングなどの条件を適合させていかなければならない。こうした「キャリブレーション」と呼ばれる作業は、「燃焼コンセプト」が違えば、開発の度にあるいは仕向地ごとに行わなければならず、それに合わせて制御プログラムも必要になり、開発に時間がかかる。「燃焼コンセプト」を統一化したことで、エンジン制御系で177種類あったプログラムは原則1種類にまで削減できた。

設計の初期段階で製造工程のハードポイントを最小化する

 「フレキシブル生産」については、その特長の一つに汎用機の活用が挙げられる。マツダ本社工場西地区でエンジンのシリンダーブロックを製造するラインでは、1工程当たり14台の汎用マシニングセンター(MC)が並んでいる。

 「モノ造り革新」の前までは専用機で対応していたのを改めた。専用機は大量生産には適しているが、変種変量生産には弱いからだ。また汎用MCだと1台が生産を止めても他の13台は動いているが、専用機は1工程が止まると全体の流れも停止してしまう。しかも刃具や治具交換のためにいったん止めると専用機は再プログラムする段取り換えにも時間を要する。

 汎用MCの積極活用によって、機械を停止することなく、1ラインで多様な製品を生産できるように変えた。発想を変え、機械が動いている時間を「付加価値」と見なす方式に切り替えたのである。

 この結果、13種類のエンジンを1つのラインで流せて、専用機時代には45工程あったものを4工程にまで激減させることに成功した。設備投資額も従来比で70%削減できた。

 エンジンの最終組み立て工程も同様に1ラインで13種類流れている。V6エンジンと直列4気筒はシリンダーの並ぶ角度が違うため、シリンダーヘッドカバーの組み付け作業の仕方も変わるはずだが、ライン上でV6エンジンだけを傾けるシステムを導入し、同じ設備で1ラインでの組み付けを可能にした。

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