小さな企業も利用できるクラウド型PLMの提供を目指す:オートデスクの新製品 Autodesk 360の日本向け発表会
従来のPLMは高価な上に導入が難しく、大手企業だけのシステムと言われてきた。オートデスクは、クラウド型のPLMの提供により、小企業のユーザーも積極的に獲得していく。
オートデスクの日本法人は、2012年1月19日、同社のクラウド型PLM「Autodesk 360」に関する日本向け説明会を開催した。同製品は、米オートデスク本社が2011年11月29日(現地時間)に米国で先行発表したもの。
Autodesk 360は、製造業向け「Autodesk 360 for PLM」、建築業向け「Autodesk 360 for BIM」の2製品がある。
Autodesk 360の概要を説明するにあたって、矢野経済研究所のマーケティング・アナリスト 庄司孝氏が現状のPLMの定義や課題、近い未来の展開について述べた。その内容も本記事後半で紹介する。
Autodesk 360とは
米オートデスク アジア太平洋 製造業マーケティングマネージャ(PLM担当)のジェイク レイズ(Jake Layes)氏は、従来のPLMについて、非常に高価なツールであることや、導入が難しくアップグレードも複雑であることを問題点として挙げた。
同社のAutodesk 360 for PLMでは、拡張性があり、かつ環境設定が容易で、直感的に使えるシステムを提供すると言う。
「いまのような厳しい経済状況の中、顧客(ユーザー)たちが競争力を高めるには、ビジネスプロセスの統合・連携にフォーカスすることが求められる」(レイズ氏)。
Autodesk 360 for PLMの製品構成は以下の通り。
- 製品データ管理ツール「Autodesk Vault」(オートデスク ボールト):「Autodesk Inventor Suite」「AutoCAD Mechanical」「AutoCAD Electrical」と連携する
- クラウドベース コラボレーションツール「Autodesk Buzzsaw」(オートデスク バズソー)
- SaaSツール「Autodesk 360 Nexus」(オートデスク 360 ネクサス)
上記3ツールをまとめ、かつシームレスな連携が可能なシステムだと言う。
オートデスクのPLMにおいての「P」は、「Product」ではなく、「Project」であると言う。それは、同社のPLMが建築業向けもカバーすることを表す。建築業界向けとして、「Autodesk 360 for BIM」も提供する。同製品のポートフォリオとしては、下記を挙げた。
- BIM用データ管理ツール「Autodesk Vault Collaboration AEC」(オートデスク ボールト コラボレーション エーイーシー):建築向けツールの「Autodesk Revit Architecture」「Autodesk Revit MEP」「Autodesk Revit Structure」「AutoCAD Civil 3D」「Autodesk Navisworks」と連携する
- クラウドベース コラボレーションツール「Autodesk Buzzsaw」
- SaaSツール「Autodesk 360 Nexus」
米オートデスクは2011年12月21日にHorizontal Systemsを買収する契約を締結したと発表。Horizontal Systemsのクラウドベース BIMツール「Glue」は将来、Autodesk 360 for BIMに統合する予定だと明かした。
レイズ氏は、Autodesk 360の基礎となった同社のクラウドベースツール「Autodesk Cloud」の顧客事例2つを簡単に紹介。
米バルザー パシフィック(Balzer Pacific)における農業機械の設計では、Autodesk Cloudの仕組みを利用することで、デスクトップのコンピュータリソースを削減し、「4日間かかっていた設計を1.5時間に減らす」ほどに作業効率を大幅に高めたと言う。もう1つ、米シンシナティ大学(University of Cincinnati)では、ポンペイ遺跡研究の際に、クラウドCADのAutoCAD WSとモバイル機器を活用し、遺跡の現場とオフィスとで密なデータ連携を図ることで、作業時間を減らしたと述べた。
「オートデスクは現在、25以上のクラウド型の機能を提供し、ユーザー数としては4000万を超えている。ビジネスにおいても、製品開発においても、ユーザーはクラウドサービスに対する期待が高く、そればかりではなく好んでいる。サブスクリプションユーザーは、(クラウドにある)さまざまなサービスを利用でき、かつデスクトップマシンでは重い動きのサービスもストレスなく利用可能」(レイズ氏)。
クラウド自体は既に新しい技術ではないが、クラウドによりさまざまなことが可能となっているのが、まさにいま(2012年)だとレイズ氏は述べた。
発売日と価格について
Autodesk 360の発売について、正確な日程は決まっておらず、2012年3月ごろまでに発売するとのこと。日本語版の提供については、それ以降になるということだ。
同製品の価格についても確定していないが、小規模の企業も顧客ターゲットに入っており、「AutoCAD LTのライセンスを複数持つ企業が利用することも視野に入れている」とレイズ氏は説明した。
PLMとは何なのか
以下では、マーケティング・アナリスト 庄司氏のPLMに関するスピーチの概要を紹介する。
現状の一般的なPLM(Product Lifecycle Management)の定義は、抽象的な概念として語られることが多い。その上、ベンダーやユーザー企業の立ち位置により定義がまちまちで、ベンダーがPLMをうたって提供する製品の内容もまちまちであることからだ。また、PLMは設計・開発のソリューションとして、「PLM=PDM」として語られることもあった。
庄司氏は、用語としての定義はまちまちながらも、PLMには以下のようなキーワードが含まれることを示し、「PLMとはどういうものなのか」を整理した。
- 製品のライフサイクル全体にかかわる
- 開発期間の短縮や、生産工程の効率化を実現する
- 顧客の求める製品の適時市場投入を実現する(ビジネスのスピードアップ)
- ITソリューションであること
実際は、ITベンダーがPLMとして具体的にツールとして提供しており、コンサルティング会社がPLMの概念や手法でビジネスをしているのではない。
以下の図は、庄司氏が企画〜生産のプロセスと、CADやCAE、PDMなどのツールの関係を図式化したものだ。
エンジニアリング系のシステムは縦長で赤い囲い部、エンタープライズ系のシステムは下部の横に広がった濃紺の囲い部となる。これらが合体したシステムがPLMであると庄司氏は考えているという。さらにここに、EDAや組み込み開発ソフトウェアと連携するシステムも存在する。
PLMの課題としては、以下を挙げた。
- 導入コスト・運用コストの削減:TOCを提言し、投資を回収しやすくする
- ERPなどエンタープライズ系システムとの接続:BOMとの統合、調達や購買との連携
- クラウドコンピューティングへの対応:(ツールの)所有から利用へ
- 大企業・特定の業種から中小企業・幅広い業種への展開:ユーザー層の拡大
近い将来は、3次元データが設計・製造にまつわる全てのステップで活用されていくと見ていると庄司氏は言う。今後のCAD業界のビジネスモデルも、クラウド型製品への移行が進み、ライセンスを購入するのではなく、利用した分だけ課金する(SaaS型サービス、モバイル端末向けサービスなど)といったビジネスモデルに変わっていくだろうと述べた。
「近い将来、日本の中で量産(生産)をやっているとは考えづらい。日本が得意としてきたデジタルカメラのような精密機器の生産も、アジア圏に移行していくだろう。また、日本国内では設計・開発、生産準備が中心となり、グローバルな分業やアウトソーシングが進んでいくだろう。それをITベンダーが、ITツールで支援することが求められ、それがPLMの姿になっていくと考えられる」(庄司氏)。
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