スマホみたいなクルマは、まだまだ夢物語かな:プロダクトデザイナーが見た東京モーターショー(3/4 ページ)
東京モーターショーで、プロダクトデザイナーが各社のコンセプトカーをウオッチ。「Fun-Vii」や「BMW i」を見て考えたこととは?
さて、フォルクスワーゲンといえば、とまた話が転がっていくのだけど、プレス・ブリーフィングでのマルティン・ウィンターコルン会長の発言が非常にポジティブであったことが印象的だ。中でも「東京ショーは新しいアイデアや技術が形作られる場である。今回の東京ショーは困難な時期にあっても、日本は自動車大国であり、これからもそうあり続けるというシグナルを出している」という発言からは、フォルクスワーゲンとそのグループの勢いを感じた。加えて、フォルクスワーゲン・グループが傘下に持つブランドの多彩さを、今回東京モーターショーには来ていないブランドまで合わせて考えると、ハイエンドのスーパーカーから大衆車までをグループ内で持っていることによる強みを、あらためて認識せずにはいられない。
技術開発1つ取ってもそうだ。さまざまなレベルでの技術要素や素材、生産・加工法などを、ビジネスの実践の中で開発を進めていくことができる。例えば、時速400km超で安定して走らせ、確実に止めるということを、レーシングカーではなくパッセンジャーカーで実現する。こんなテーマも単なる研究開発ではなく、ブガッティ・ヴェイロン(BUGATTI Veyron)という商品にしてユーザーの声を聞きながら、改良・進化させていくことができる。コストの高い先端技術が時とともにコモディティ化が進む中で、ランボルギーニ、ポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲン、セアト/シュコダと適用範囲を拡げていったときの経験値の蓄積は、競合他社との大きな力の差につながるのではないだろうか(余談だが、以前に点検整備中のヴェイロンを見たときの印象は、クルマというより「高速走行する電車みたい」というものだった)。
そのフォルクスワーゲンが東京で世界初公開したのは、「CrossCoupe」というプラグインハイブリッド車のコンセプトカーだった。
ホンダ
レトロ路線に話を戻すと、今回のホンダのコンセプトカー「N CONCEPT_4」は、昔のN360を思い起こさせるデザインであるが、これもこのイメージで市場投入された場合、「その次のモデルチェンジの際には、企画・開発の担当者は頭を悩ませることになるのだろうなぁ」と、人ごとながらブースを歩きながら思ったりした。
再度、BMW
一方で、レトロから始めたけれど、次の方向性を探り始めているかのように感じるのは、BMWグループのMINIである。ハッチバックボディから始まったモデルを、バリエーション展開していく中で、クロスオーバーというモデルを投入する時点で、「もはやMINIって大きさじゃないよね」っていう一回り大きなボディに4ドアという構成を採用したことで、これまでのレトロ路線とは異なる、新しい道を模索しているようにも感じる。今回の東京モーターショーにも今年初めの北米オートショーで公開された「Peaceman Concept」というデザインスタディが持ち込まれている。
シトロエン
MINIやビートルのようにカタチのレトロ路線により、自社の過去の名車にあやかろうと(表現は悪いが)しているのに対し、シトロエンはかつての名車「DS」を引用するにあたり、レトロ路線でアイコン化することを選ばなかった。ベーシックな「Cシリーズ」と異なる製品シリーズとして「DSライン」を設定するに際、「『DS』の2文字は、創造性と大胆さ、高水準技術を表現している。革新と差別化のDNAを継承しつつ、未来への新しい考え方を表現するものである」と定義している。だから、レトロなアイコン的なデザインではなく、コンセプトの象徴としての名称の継承なのだと。トヨタの「ハチロク」というネーミングの採用も、「DSライン」と考え方や思いは似ているかもしれない。
今回日本初公開の最新モデルである「DS5」は、ハイブリッドカーやFCVでもないし、特別目をひくような技術が売りになっている訳でもない(凝った造形や構成のバンパーやボディパネルを上手く作っている)。しかし、現在市場にある競合他社の何とも似ていないことからくる強い存在感は、多彩なクルマがあるショー会場でも感じた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.