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「Androidで誰がもうかるのか?」――誰かがもうかるルールの下でゲームをしよう!本田雅一のエンベデッドコラム(11)(1/2 ページ)

「Androidで利益を出せるのは誰なのだろうか?」。“誰ももうからないルール”の下でゲームをするのではなく、誰かがもうかるルールへと切り口を変えることが、Android搭載機器を考える上で重要だ。

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 この1年ほど、ずっと心の奥で引っ掛かっていたことがある。そのちょっとした疑問は、この半年でさらに大きくなってきた。疑問とは「Androidで誰がもうかるのか?」である。消費者にとっても、これは大きな問題になる。メーカーがもうからなければ、イノベーションに向けた投資は限定される。

 最終製品のメーカーがあまりもうからなくとも、部品メーカーがもうかるようなら、そこでの技術革新は促されるだろう。もちろん、本連載のテーマを考えれば、利益をきっちり上げて、次へとつなげることが重要であることは言うまでもない。

 しかし、「Androidで利益を出せるのは誰なのだろうか?」と考えてみても、大もうけできる企業はどこにもいないように思えてしまう。言い換えれば、“誰ももうからないルール”の下でゲームをするのではなく、誰かがもうかるルールへと切り口を変えることができるかできないかが、Android搭載機器を考える上で重要だろう。

スマートフォンによる構造変化

 利用者の立場から見ると、従来型のフィーチャーフォンからスマートフォンへの変化は、携帯電話事業者と端末メーカーが機能を決めていた枠組みに対して、その機能制限が解かれて自由に使いこなせる小型の汎用コンピュータへと発展したことが、最も大きな違いだ(人によって、それは大きな自由となる一方で、使いこなせなかったり、逆に不自由と感じるユーザーも出てくるだろう)。

 しかし、第三者の視点で事業モデル全体を俯瞰(ふかん)してみると、もっと大きな変化が業界全体を襲っていることが分かる。業界の構造全体が変化してしまったのだ。

 もちろん、モノづくりに携わる読者の皆さんのこと。「そんなことは、十分に分かっている」と話すかもしれない。しかし、ここではいま一度、スマートフォンによる業界構造の変化について復習しておきたい。

フィーチャーフォンのモデル
フィーチャーフォンのモデル

 フィーチャーフォンはネットワークインフラの状況に合わせ、計画的にアプリケーションが投入され、予想されるトラフィックの範囲内で極度のアクセス集中が起こらないようコントロールされてきた。しかし、スマートフォンではハードウェア、ソフトウェア、サービスを密に結合してパッケージ化するのではなく、アプリケーションの開発基盤を開放し、誰もが携帯電話のネットワークを使ったアプリケーションを開発できるようになっている。

スマートフォンのモデル
スマートフォンのモデル

 スマートフォンの世界で、端末の価値を決めるのは携帯電話事業者や端末メーカーではなくなっている。いや、もちろん端末の性能やデザインといった要素は残るものの、その上で動く機能の多くは、ユーザー自身がインストールするソフトウェアと契約するサービスに依存しているのは明らかで、ローエンド端末からハイエンド機まで、基本的には同じアプリケーションやサービスが利用できる。

 無論、“ガラケー機能”を取り込むなど、独自にハードウェア拡張を施していくとしても、対応するアプリケーションに発展性がなければ自発的な成長は望めない。ユーザーが見るのは、画面の美しさや解像度、サイズ、それにアプリケーションを高速に動かすプロセッサやGPUの性能へと、中長期的には収束していくと考えられる。

Android端末ではもうからない理由

 こうした構造の変化は、すなわち、「Android端末では利益が上げにくい」ことを示している。Androidを採用し、汎用の情報端末として販売する限り、その製品では大もうけする企業は現れない、あるいはいずれ絶滅していく。そうならない可能性はゼロではないが、非常に小さいといわざるを得ない。

 Android採用端末の市場は、同じAndroid OSを採用する機器同士で市場が分断され、厳しい競争にさらされるからだ。

 Androidを採用するメーカーのうち、「少しでも良い製品を」と使用フィーリングにまでこだわるメーカーは、タッチパネルの仕様などハードウェアの改善に注力するだけでなく、Androidの基礎になっているLinuxのドライバ部にまで立ち入って、レスポンス良く動作するよう工夫をしている。

 現在のところ、そうしたチューニングが功を奏しているケースもなくはない。しかし、いずれこの差はなくなっていくだろう。フィーリング向上の方法論が分かってしまえば、どのメーカーも同じような工夫を盛り込んでいくはずだ。それに、どんなに頑張ったところで、Android端末がカバーする領域を1メーカーで独占できるわけではないからだ。

 Android搭載のスマートフォンは、iPhoneに比べてシェアで互角の戦いを……というのは、よくいわれている話だが、その市場は多くのメーカーが分け合い、さらに同じメーカーが対象ユーザーごとに最適化したラインアップをそろえている。たった1つの製品で、全ての市場をカバーするiPhoneとは、1機種当たりの製造数で比較にすらならない。

 Android端末で大もうけをする企業が生まれない理由は、「ハードウェアで大きく利益を上げられる企業が“存在できない”」からだ。これが私が出した現時点での結論だ。サムスンやHTCが伸びているといったところで、アップルには全くかなわない。そればかりか、勝ち組と目されている端末メーカーですら、今後の先行きは不透明だ。

 HTCが今年(2011年)の端末販売数を下方修正したニュースが流れたが、比較的好調なサムスンも来年(2012年)以降、高品位な有機ELディスプレイを中国含めさまざまなパネルメーカーが作り始めると目されており安心できない状況にある。ユーザーインタフェースの改善などの差異化も、HTCが伸び悩んでいることを考えれば、影響としては大きな要素にはなっていないと考えるのが自然だ。

 現在のAndroid端末市場は、ワールドワイド全体を見るとハイエンドとローエンドにニ分化されており、ミドルレンジの市場がつぶれてなくなりかけている。ローエンド市場を形成するグループが、スマートフォン端末の開発・販売で力を付けてくると、かつてHTCが急伸したように、上位メーカーを脅かすことになる。

 開発メーカーとしての順位が上だとしても、競争はなかなかタフなものになっていくと思う。

 このような過酷な競争環境にあると、どんなに素晴らしい端末も、発売後は値を下げていく。スペックに勝るライバルモデルが登場すれば、必然的に新製品へと流れていきがちだからだ。たとえ“スペック=製品としての良さ”ではないとしても、価格トレンドの流れは変わらない。そして、落ちた価格は新製品へのモデルチェンジによってしか回復しなくなるため、好評であったとしても毎回デザインを新たにして、生産工程を一新させなければならなくなる。

 また、ライバルが多いと、自社製端末の特徴を出すために、製品コンセプトを先鋭化させがちになる。同じような端末の中に埋没しないよう商品企画を工夫するほど、気持ちよく使える対象ユーザーの範囲は狭くなりがちだ。

 つまり、Androidのような競争環境では、メーカー間で市場を細分化し、自社製品の先鋭化と多機種化によって細分化し、さらにモデルサイクルが早まることで1台当たりの製造台数を減らしてしまっている。これではもうからない。

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