日本のエネルギーは今後どうなる:小寺信良のEnergy Future(9)(3/4 ページ)
エネルギー白書2011では原子力の依存度を下げていくという方向が初めて打ち出された。ただし、再生可能エネルギーを増やすだけでは対応できない。ガスや電力の供給網を全国統一する他、オフィスビルの照明などに工夫が必要だ。
節電すればよいというものではない
3月11日以降、電気が足りないのだという問題を社会に突き付けたのが、計画停電であった(図6)。これに関しても白書ではまとめている。グラフを見れば一応、供給能力に対して需要予測が上回ったときに計画停電が実施されていたのが分かる。ただ、需要予測はあくまでも予測であり、本当に足りなかったのかはこの資料からは判然としない。
この夏は企業の節電義務により、計画停電は回避された。計画停電がなかった2010年夏の消費電力を業態別の内訳で見てみると、業務用が最も多く、続いて家庭用、産業用となっている(図7)。さらに細かく見ていくと、業務用は小口が多く、産業用は大口が多いことが分かる。夏の節電は主に産業の大口契約事業者に義務を負わせた格好だが、業務小口、あるいは家庭での節電も効果があるはずだ。
業務部門ではオフィスビルが電力需要の40%を占める。オフィスビルの用途別電力消費を見ていくと、空調と照明の比率がかなり大きいことが分かる(図8)。多くの人が働いている時間に空調の電力消費が伸びるのはある程度仕方がないとしても、昼間で日光があるにもかかわらず照明がかなりの割合を占めているのは問題だ。オフィスビルの設計そのものに自然採光するという発想がなく、実際の運用もまぶしい太陽光を遮断した上であらためて照明を点けていることになる。
かといって節電のためにやみくもに照明を消すのも考えものだ。夏ごろに訪ねた企業や官公庁では、廊下の電気を消してほぼ真っ暗、というところも多かった。廊下は無駄だという発想は分かるが、その薄暗い雰囲気が労働者の士気を下げるというデメリットも考慮すべきではないかと感じた。はっきりいって、辛気くさいのである。
大掛かりな工事が必要な改修は難しいとは思うが、窓から採光が可能な場合は、何かうまく光を回す工夫で、暗いまま放置するのではない対策が可能ではないのか。このあたりは窓のフィルタや天井の素材、壁紙など、光学メーカーや素材メーカーができることはたくさんありそうだ。
一方家庭においては、在宅・非在宅別の需要カーブが興味深い(図9)。分かりやすい方でまず非在宅世帯から見ていくと、これはもうほとんど冷蔵庫が一定の電気を食っているだけだろう。ただ冷蔵庫もないと困るものであり、これ以上の節電は見込めない。非在宅世帯ではあまりできることはないようだ。
在宅世帯の場合では、空調に最も多くの電力を使っていることが分かる。それに冷蔵庫の一定量が乗るという格好だ。照明は夜になればそれなりに増えるものの、日中は業務部門のようには多くない。家庭では昼間は太陽による採光で十分まかなえていることが分かる。
またPCは、日本マイクロソフトが自動節電プログラムを提供するなどの動きはあったものの、もともと大した電力量ではないことが分かった。日本マイクロソフト側でもそれは提供前から把握しており、電力消費を抑えるというよりも、IT機器の節電ノウハウの蓄積といったところに実益があったようだ(関連記事:夏季の節電に貢献、マイクロソフトがPCを自動設定するツールを公開)。
ここまで見てきたデータは夏の電力消費であり、暑い部屋を冷やすためにはエアコンぐらいしか手段がないことから、どうしても相対的にエアコンがやり玉に挙がることになる。しかし冬場に暖を取るものはエアコンだけでなく、ガス、灯油など別の手段も多くあることから、空調設備が大きな負担となるようには思えない。
幸い2011年から2012年にかけては暖冬のようで、もう11月も過ぎるが全国的にもそれほど本格的な寒さは到来していないようだ。ただ冬は冬で豪雪地帯なども当然あることから、空調にかかわるエネルギーを電力から他の手段へ分散していく方法は模索すべきだろう。
最後に、日本の電力網が抱えている構造的な問題を考えてみよう。世界的にも珍しい50Hz/60Hz問題だ。
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