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板金工場が考えたiPadのデジタルサイネージマイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(15)(2/3 ページ)

受注が大きく落ち込んだ自社の板金加工業を元気にしたいと考えた末、行き着いたのはデジタルサイネージの世界だった。

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iPadに情報提供ステーションとしての「しつらえ」を与える

 通常のiPadを会社などの受付に置いておくだけでは、盗難の危険があります。また、立った人の目線にiPadを設置するのが結構大変だったりします。

 会社の受付は、その印象を決める最初の場所。そんな大切な場所には、それなりの「しつらえ」が必要だと椛沢氏は考えました。

 つまり単純にiPadを机の上に置きっぱなしにするよりは、情報提供場所の象徴的ないわば「アイコン」として、それなりの「しつらえ」をiPadに提供することで、デジタルサイネージ装置として生きてくるということです。

 そこで開発されたのが、同社の「i-nage」(アイ・ネージ) でした。

i-nage
iPadを使った、i-nage

 i-nageのデザインには非常に力を入れたそう。その表示部分には、ちょうど人が立った目線から一番見やすく、操作しやすい位置にiPadがピッタリと収まるようにしました。

 i-nageは、iPadの盗難や電源確保の心配をさせない設計とし、見る人に必要な最新情報を無線LANで転送可能としました。

 現在、歯科医の受付専用のアプリケーション開発をする企業と提携し、i-nageを歯科医院に営業しているとのこと。その企業は、既に個人経営の歯科医、開業医などに対して販売チャネルを持っていました。なので、椛沢氏はまっさらな状態から営業する必要がありません。両社が提携することによってシナジーを生み出せると考えました。

 今後は、歯科医・開業医だけではなく、一般の開業医や不動産屋さん、居酒屋などにも展開していくとのことです。受付に担当者を配置する代わりに、iPadを置いておくことで、来客者が自ら、予約状況などの情報を閲覧するのに活用してもらおうということです。

i-nage
人の目線に合わせた画面

商品のストーリーで商品価値を高めて差別化する

 これまでのデジタルサイネージの概念は、一般的にお店で取り扱っている食品や製品、サービスについて顧客に新たな情報を提供することのみで、「単なる“モノ”を展示する」以上の付加価値を商品に加えるというケースはあまり見られませんでした。

 iPadという比較的安価な情報端末と、それを「しつらえ」で分かりやすく提供するi-nageを組み合わせることで、中小企業であっても、販売の現場で商品ストーリーを提供することで、商品価値を高める試みができるようになりました。

不動産業の例

 不動産業界では一般的に、不動産流通機構が管理するデータベースから物件情報を得て、それを顧客に提供するようになっています。しかし、それだけでは自社の差別化がうまく図れません。

 そこで、「その店舗だけしか知り得ない「掘り出し物件」の情報をiPadに入れて展示することで、他店舗との差別化を図りたい」という引き合いがあったとのことです。

居酒屋の例

i-nage
居酒屋の設置例

 ユニークな導入例としては、東京に拠点を持たない地域食材のアンテナショップの仕組みとしてコミュニティー居酒屋に導入されたことがあります。

 この居酒屋では、地域の産地直送食材を使ったメニューを頻繁に入れかえることを目玉としています。新たな食材の入荷情報を表示させる仕組みとして、i-nageが採用されました。

 テーブルごとにi-nageを設置して触れてもらうのではなく、白くカラーリングしたi-nageを店内の目立つ場所に置き、各地域から入荷した食材のバックストーリーを閲覧してもらうようにしました。そこで紹介された食材を実際に食べたときの感動を深く味わってもらいたいという思いから設置されました。


自社製品開発で「常に商品アイデアを考える」ように

i-nage
i-nage側面のステンレスはベンディングの加工精度と、溶接精度で表面に凹凸ができやすい。しかし、i-nageではではほとんど凹凸がみられず、ほとんど鏡面。カメラを構えて写り込んでいるのは筆者

 椛沢氏は、今回の最終製品開発を通して、これまでBtoBの商売だけでは体験できなかったタイプの商品企画、デザイン、営業をすることで、モノづくりに対する考え方が大きく変化したようです。

 リ・フォースは、過去は営業対象がアーケードゲーム業界に限定されていたのが、最終製品を取り扱ったことで一般消費者との直接のコミュニケーションが増えて営業に対する考え方が変わり、他業界に対しても常にアンテナを張るようになったということです。

 その結果、普段から、営業チームや設計チーム全体で、常に製品アイデアを考えるようになり、具体的な商品コンセプトの提案も、自然と出てくるようになったとか。

 「最終商品を開発する」ということは、「自分たちで販売価格を設定できる」ということですから、椛沢氏や社員たちは、町に売られているさまざまな商品の価格を見て、「どういう原価構成になっているのか」ということを考える癖が付いたということです。顧客に対して提供する価値を常に自問自答するようになり、8人の営業チームのまとまりも出てきて、モチベーションも高まってきているとのことでした。

本業につながる「セールスマン」としてのマイクロモノづくり

 本業が順調であれば、多くの経営者は、自社製品開発を「ムダなこと」と捉えがちです。しかし、それは誤りです。

 今回の椛沢氏も話していたように、i-nageという製品を世に出すことで、社内の意識は大きく変わります。その効果は社内の意識が「最終顧客を意識したモノづくり」という1点に絞られ、結果として既存の取引先の満足度を上げることになります。

 また、最終製品を世に出すことで、社員の1人1人がブランドを作り上げようと必死に努力します。その結果として、出来上がった製品の品質と、そこに込められた技術力を世の中にアピールできることで、従来とは違う業界の顧客から、引き合いを受ける可能性が高まります。

i-nage
空調設備を備えた非常にきれいな工場の中で、ベンダーを操作する社員には若い人や女性の作業員も見受けられる

 椛沢氏は、「一度自社商品を作り上げたら、その商品の営業は中途半端な気持ちではなく、100%の力を投入すべきだ」と言います。その理由は、せっかく苦労して創り上げた最終製品は、自社にとって企画力や技術力を広く知らしめる強力な「セールスマン」になり得るもので、そのセールスマンを外出させる(販売する)努力をしなければ、それが本業へとつながる効果は期待できないからです。

 それは、マイクロモノづくりを実践した方だからこそ出てくる言葉であると、筆者は非常に納得しました。

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