「町工場にもロボットが普及していく」〜産業用ロボット世界シェアNo.1の安川電機(後編):再検証「ロボット大国・日本」(8)(2/2 ページ)
産業用ロボットの雄、安川電機は産業用ロボットを中核としつつ、単能工型から多能工型への転換を図り、サービス業にまでロボットを普及させる。
一般から広くアイデアを募りたい
産業用ロボットの利用分野を広げるといっても、具体的にどこからやればいいのか、これはなかなか難しい問題だ……。そこで登場するのが、前回の最後に紹介した「やすかわくん」である。
「やすかわくん」は、MOTOMAN-SDAをベースに開発したソフトクリーム製造ロボット。もともとが産業用ロボットなので、器用に機材を使ってソフトクリームを作るくらいはお手の物だ。お披露目は2010年夏、東京サマーランドに登場したのが最初だ。
ロボットは何かと目立つため、よく展示会などでは客引きだけのためにロボットを使う例があるが、この「やすかわくん」はそれとは違って「大真面目にやった」(林田氏)のだという。
「やすかわくん」の目的は、ロボットの新しい用途を開拓すること。実は、ソフトクリームを作るだけなら、専用ロボットを作った方が手っ取り早く、同社は「やすかわくん」とは別に、そういうものも手掛けている。しかし、あえて双腕ロボットでやらせているのは、世間の注目を集めて、アイデアを出してもらうためだ。
反響はかなりのものだったようで、同社にはさまざまなところから依頼が届いた。特に、エンターテイメント系の引き合いが多く、今年(2011年)の夏には、ナムコ・ナンジャタウンで“かき氷ロボット”が稼働し、静岡県のパン屋には「やすかわくん」がレンタルされた。
「われわれにはロボットの技術はありますが、自動車以外でキラーアプリを見つけられていません」と林田氏は正直に述べる。内輪から出てくるアイデアにはどうしても限界がある。しかし、他分野の人が思わぬ使い方をして、それが新しいビジネスになる例はよくある。ロボットのレンタルはビジネスとしてみれば決して大きくはないが、大勢の人が「やすかわくん」を見れば「ウチでも使いたい」と手が挙がるだろうし、その中からキラーアプリが出てくるかもしれない。期待しているのはそこだ。
産業用ロボットが旋盤を回す?
大きなビジネスになるのはまだこれからだろうが、「かなりの感触は得ている」と林田氏。例えば、医療の分野では、危険な薬品を扱うようなところを自動化するニーズがあることが分かった。また、ファストフード店の厨房で、レンジで温めて盛り付けるようなことは自動化に向いており、ロボットの導入が期待できるという。
基本的に、人間が働いているところはロボットで自動化できる可能性がある。その中でも、重労働のためにロボット化のニーズが高くて、規格化されていて自動化しやすい分野、そういった条件が重なるところが有力なターゲットとなるだろう。
従来「職人の技は産業用ロボットでは無理」といわれることが多かったが、最近はロボット技術の進歩により、「職人が持っている技術の伝承ができるようになりつつある」(林田氏)のだという。町工場も職人の高齢化が進み、後継者問題が顕著になっている。もちろん、まだ自動化が難しい部分も多いだろうが、「中小企業ですごいモノ作りの技術を持っているところはたくさんあります。そういう会社ほどロボット化への取り組みは積極的」(林田氏)だとか。
町工場の中で、職人と双腕ロボットがモノ作りに励んでいる――そんな近未来も日本らしいかもしれない。
ちょうど2011年11月9日から、東京ビッグサイトにて「国際ロボット展」が開催されている。産業用ロボットのメーカー各社も勢ぞろいするので、実際に動いているところを見たい人は、ぜひ足を運んでみてほしい。
ロボット/ロボット開発 コーナー
筆者紹介
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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